企業のハラスメント研修で取り上げられない背景
現在、多くの企業でハラスメント研修が導入され、人権意識に関する啓発が行われている。しかし、「そうした研修の内容は『上司から部下へのパワハラ』や『男性から女性へのセクハラ』、あるいは『同性愛者への差別はやめましょう』といったステレオタイプ化された事例が取り上げられることが多い」とAさんは指摘する。
そうした研修のなかで見逃されがちなのが、同性間のハラスメント、とりわけ男性間で交わされる事案だ。
「ハラスメント研修を導入している企業は確かに増えています。啓発動画を視聴したり、アンケート調査や個別面談を行ったりところもあります。しかし、上記のような男性同士の“いじり”や“笑い”のなかに性的なハラスメントが溢れていることは、見逃されやすいのです。
というのも、そうした研修を行う本人がセクシャルハラスメントとは気づかずに、部下や周囲の社員にこうした言動を取っているケースがあるからです。もちろん企業だけなく、学校の性教育の現場などでも『避妊具を茶化したりする』『女性らしい生徒をイジる』など、起こりうる問題です」(Aさん)
メンタルヘルスが悪化して転職を経験
こうした事案に、実際に苦しめられている男性もいる。過去に大手不動産会社で働いていた男性・Bさん(30代)は、ハラスメント研修を担当した上司の発言に不快な思いをしたという。
「5年ぐらい前、前に勤めていた会社でジェンダー関連のアンケートを書かされた後に、上司と個別で面談する機会がありました。研修を担当した上司から『お前自身は嫁もいるし、ホモじゃないよな? で、ホモとかレズを差別する思想とか持っているか?』と聞かれたんですね。研修での上司の発言は、実際にはさらにひどいものだったのですが、あまり口に出したくありません。
疑問を感じましたが、僕はそこで『その言い方はおかしいと思います』とは言えませんでした。やはり、立場が低いので『大丈夫っす!(笑)』と笑ってやり過ごしてしまった。今でも後悔しています」(Bさん)