米国、スイスは資産運用のうえで安全な国ではない?
この点について、中国本土の複数のマスコミが先週、「海外の華僑が大量の資金を香港、あるいはシンガポールなどに移している」と伝えている。
3月23日付の「経済観察報」によると、「この1か月の間に、華人の資産だけで、米国、スイスからそれぞれ760億ドル、1650億ドルの資金が流出している。スイスの銀行については、世界の富豪、特に中国の富豪が数百万ドル単位で預金を香港、シンガポールを中心に、カナダ、オーストラリアなどの銀行に移している」と伝えている。
米国は第二次世界大戦当時、米国在住の日本人を収容し、その資産を没収した。また、スイスは中立国でありながら昨年2月、ロシアに対する制裁パッケージを適用した。米国との覇権争いが激化している中国を祖国に持ったり、中国籍であったりする華僑系富豪にとって米国、スイスはもはや資産運用上、決して安全な国とは思えないのであろう。
もっとも、こうした預金流出に関する情報は現在のところ、本土筋からしか出てきておらず、それが事実かどうか断定はできない。正しいかどうか確かめるためには、各国の金融当局、香港であれば金融管理局が3月の統計を発表する2か月後まで待つほかない。とはいえ、誰もが正確な情報を知り得たときにはリスクを回避しようにも、高いリターンを狙うにも、既に手遅れになっている可能性が高い。
資産運用において、ハイリスクとハイリターンは表裏一体だ。しばらくの間は、リスク回避に重心を置きつつ、玉石混交のマスコミ情報を大まかにチェックし、各国の銀行セクターの株価、金先物価格、為替などの値動きを総合的に注意深く見守りながら最悪期の通過時期を淡々と探るしかなさそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。