「異次元の少子化対策」と繰り返す岸田文雄・首相。「わが国の社会経済の存立基盤を揺るがす、待ったなしの課題だ」と息巻くが、行き当たりばったりの選挙対策で私たちの社会保障を脅かそうとしている。
1人の年金を生産年齢人口(15~64歳)が何人で支えているかをみると、1960年頃は約11人で1人を支えればよかったが、現在は2人で1人、少子化が改善されない限り、将来的にほぼ1人が1人を支えていることになる。
たとえ保険料を上げても現役世代が支えるのは無理で、そうなると年金を大幅に減額するしかない。ニッセイ基礎研究所が3月16日にリリースした『出生数80万人割れでどうなる?』と第するレポートでは、最悪のシナリオは「年金水準5割減」となっているが、それでは収まらない可能性さえ指摘されている。
次の年金財政検証は2024年に行なわれ、厚労省は最新の出生率や経済指標をもとに「年金の将来見通し」をまとめ、制度を改正する。すでに政府の社会保障審議会(年金部会)では年金改正に向けた議論がスタートしている。改正メニューに挙がっているのは、国民年金の加入期間を現在の40年から45年に延長、パートの厚生年金強制加入の対象拡大、マクロ経済スライドの期間延長などのテーマだ。
少子化の進行で将来年金が半分になるといっても、いっぺんに起きるわけではない。それまで段階的に、国民が支払う年金保険料が増やされ、年金支給額が減らされていく。改正メニューはいずれも負担増か、年金減額につながるものだ。年金制度に詳しい“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「次の年金改正は最近でもとくに負担が重い改悪になりそうです。国民年金の加入期間延長では、保険料の支払額が5年分で1人約100万円、夫婦2人なら200万円ほど増える。年金財源が足りないから、目先の保険料収入を増やすためです。
国民から見れば、保険料を長く払えばその分、年金額は少し増えるが、年金増額分で100万円を取り戻すには10年かかる。しかも、年金財政を考えると、その頃には再改悪で年金額がもっと減らされている可能性があります」
パートの厚生年金加入拡大は段階的に進められ、昨年10月には従業員101人以上の企業、2024年10月からは従業員51人以上の企業のパート社員に社会保険加入が義務づけられる。
「それまで3号被保険者だったパートの妻が夫の扶養家族から外れて社会保険に加入させられると、月給10万円なら給料から毎月1万5000円の保険料を天引きされ、手取りが減る。現在、厚生年金に加入義務があるのはパートでも賃金が月額8万8000円以上の人だが、次の改正でこの賃金要件が撤廃され、少額でも給料収入があれば厚生年金に加入させられる可能性もあります」(北村氏)
これも保険料収入を増やす目的だ。