小さくても“本物感”のあるデザイン
そこで三菱は「デリカ」という、三菱にとって伝統のあるブランド名を持ってきました。本来、その名は1968年に商用トラックとしてスタートし、それをベースに多人数乗車が可能なワンボックスへと拡がりを見せていったデリカ。1969年に登場した9人乗りの乗用モデル「デリカコーチ」などは、まだアウトドアという言葉すらなかったような時代から、オールラウンドに使えるクルマとして日本の外遊びを牽引してきました。その流れを継いで、現行モデルの「デリカD:5」は、本格的なオフロード性能を備えたミニバンとして唯一無二、確固たる地位を築いています。その小型版と言うか、弟的な存在だから「デリカミニ」というのは実にわかりやすいわけです。
ベースになったのはスーパーハイトワゴンである「eKスペースシリーズ」。半世紀以上にわたりデリカシリーズが創り上げてきたタフでワイドなイメージを、この小さなフロントフェースの中で表現しました。半円形のLEDポジションランプを内蔵したヘッドランプは可愛らしさとワイルド感とが組み合わさり、やんちゃな感じも出ていて、デザイン面での大きな特徴となっています。ランドローバーのディフェンダーっぽさも感じます。さらに、前のバンパーやリアゲートには「DELICA」ロゴが大きく入り、ボディサイドには黒いホイールアーチなどなど、SUVとしての“本物っぽさ”を感じさせるパーツがどっさりとついています。こうして完成したのが「お気軽なワイルドさ」です。そこにデリカミニというネーミングが来ることで“肩肘張らないちょうど良さ”が表現できているわけです。
そんな遊び心を日常で過ごせるからこそ、デリカミニのコンセプトは「DAILY ADVENTURE(日常に冒険を)」となったのでしょう。さらに内装はeKクロススペースからそのまま譲り受けた装備が採用されています。アイデアを活かした豊富な収納スペースや装備類は機能的で使いやすく、ファミリー用としても若い人たちの遊び用としても、過不足なく対応してくれます。商品をイメージしやすい絶妙なるネーミングと、その名に恥じない“本物感”との組み合わせが、現在の人気を生み出していると思います。
一方で、これまであったeKクロススペースはカタログから落ちました。良く言えばデリカミニは先代モデルの後継車ということになります。しかし、これはeKクロススペースという車名と、現行のデリカD:5譲りの大人っぽいフロントグリルの組み合わせが、クルマの個性をイメージしにくかったことがあったのだと思います。それがようやく車名を聞けば一発でクルマのスタイルが出てくるところに来たと思います。ネーミングとデザインはエンジン性能や乗り心地以上の強力な武器になることをデリカミニが教えてくれたわけです。