近年、注目度が高まる職場のメンタルヘルス問題。職場の人間関係や部下との接し方に悩んでいる人は、どのように振る舞えばよいのか。そうした点についてアドバイスしてくれるのが、著書『職場のメンタルヘルス・マネジメント──産業医が教える考え方と実践』が話題の、京都大学名誉教授・川村孝さんだ。長年、産業医として働いてきた川村さんに、話を聞いた。
一回壊れてしまうと、もとに戻すのは難しいからこそ
管理職をおもな読者と想定した本だが、社会人になったばかりの人やこれからなる人、その家族にも読んでほしい。組織の中でメンタルヘルスをこじらせないためにはどうすればいいかが、わかりやすく丁寧に書かれた本だ。
著者は長年、産業医としての経験を積んできた。産業医という存在について聞いたことがあっても、実際には会ったことがなく、どういう仕事をしているかわからないという人も少なくないだろう。仕事の内容だけでなく、どういうタイミングで産業医に相談すればいいかも本を読むとよくわかる。
「人間関係がこじれて鬱病になって休職してから対応するのは本当に大変です。産業医が復職のときに面談するんですけど、一回、壊れてしまったものをもとに戻すのってかなり難しい。未然に防ぐのが大事ですよ、ということを伝えようと書いた本です」(川村さん・以下同)
京都大学の職員研修で話した内容をベースに、研修の限られた時間では伝えきれなかったことも加筆して、一般向けの新書にまとめた。
「新入社員の初期研修というのがありますよね。短いと一週間、数か月やるところもあるかもしれませんが、創業者や社長が愛社精神を伝えることはあっても、雇用は契約だということについてきちんと伝える会社はあまりないと思います。
小さい会社だととくに、ファミリーという意識が強くなりますけど、会社は学校でも家族でもないんですよね。家族や地縁血縁のような、ある種の必然や愛情があって集まる集団ではなく、便宜的に集まったものです。雇用契約って、本来すごくドライな概念なんですよ」