本には、目からウロコが落ちる言葉がいくつも出てくる。たとえば、「従業員は会社が用意した着ぐるみを着てその役を演じているに過ぎない」というところ。着ぐるみがドジをしたら、「中の人」は、着ぐるみが責任を感じていると見えるよう立ち回ればいいと書かれていて、なるほど、と何度もうなずきたくなる。そういう風に考えることができれば、内面まで深く抉られるような事態は回避できそうだ。
逆に言えば、管理職の側も、部下の生き方や人生観には立ち入らず、求められた役割、着ぐるみを着た立ち居振る舞いがきちんとできているかどうかに心を配ればいいのかもしれない。
「管理職の責任は重くて、安全配慮義務もあるし、一方で何か注意するとハラスメントだと言われることだってあります。最近の若い人は叱られ慣れてないから、人によって接し方も変えないといけない。じゃあどうしたらいいんだ、ということになりますよね。たとえば部下にちょっと変わった人がいて、指示が通りにくいなと感じた場合などに産業医に相談してもらい、状況を聞いたうえで、それならこうしたらいいですよ、とお伝えすると、意外にうまくいったりします」
日本の会社の管理職には、マネジメントに専念するタイプと、プレイングマネジャータイプの二通りがいる。後者の、どうしても管理に徹しきれないタイプはかなりたくさんいるそうだ。
「管理職は、どうすれば人を動かすことができるかも考えてほしいですね。悪い点だけじゃなく良い点も必ず言うとか、今日のゴールを示すとか、要するに自分が言いたいことを言っちゃだめで、聞く人が受け入れやすい、やる気が起きるようにする言い方にはそれなりの仕掛けがいるということです」
ものを言うのはやっぱり経験です
メンタルヘルスを守ることへの関心は社会的にも高い。自殺者の増加を受けて、2015年にはストレスチェック制度も導入された。
「私が産業医になった1980年代には、休職の原因としては整形外科的な、重労働による障害などが多かったですが、最近は、7、8割がメンタルです。どうしてここまで増えてきたか、ひとことで言えば、時代でしょう。
たとえば今の受験は、一切のむだをはぶいて、最小の努力で最大の効果が出るような勉強をさせますよね。失敗しない、させてもらえないから、どうしても逆境に弱くなります。
神経発達症、いわゆる発達障害の問題もあります。そういう人たちが、会社の一定のルールの枠の中に入ってきたとき、弾き飛ばされてしまうこともよく起こっています」