「サイバートラック」ついに納車開始か
テスラの決算発表で、イーロン・マスク氏は2023年7−9月期に、注目度の高いEVピックアップトラック「サイバートラック」の納車が始まると語った。
「サイバートラック」は2019年にデザインが発表された直後、5日間で「250k」(25万台、イーロン・マスク氏のツイートより)もの予約を集めたとされている。また、現在では100万台以上の注文が入っているという説もある。まさにメガヒットとなる可能性を秘めた車だ。
元々米国では乗用車よりもピックアップトラックのほうが売れている。フォードが「F−150ライトニング・ピックアップトラック」を発売したのはそのためだ。
しかし、2023年1−3月期に実際に売れた「F−150ライトニング」は5000台程度。バッテリーの不具合から一時生産ラインが停止したという理由もあるが、現時点では「サイバートラック」の爆発的人気には及ばない。
一方、新興EVメーカーのリビアンは、最初にEVピックアップトラックを発売した企業だ。そのリビアンでさえ、2023年の販売目標は5万台程度にとどまる。
「サイバートラック」の納車が開始されれば、テスラの業績を相当程度押し上げることが期待できるだろう。
「新型コンパクトEV」開発も
さらにテスラは「新型のコンパクトEV」の開発も行っているとされる。テスラは新たにメキシコに工場を建設すると発表しているが、規模ではテキサスの「ギガファクトリー」の2倍以上で、「新型のコンパクトEV」を「年間400万台規模で生産」予定だという。
この新型車は「モデルYを小型化したデザイン」と言われており、販売価格は2万5000ドル程度を目指す、としている。
「サイバートラック」と「新型のコンパクトEV」の量産開始がいつになるかはまだまだ不透明だ。ただ、数年内にこの2つのモデルが投入されることは間違いない。そうなれば、テスラの成長にさらに拍車がかかることは言うまでもない。
昨年12月には大型EVトラック「セミ」の納車も開始されている。提供車種が増え、マスク氏が提唱する「あらゆる地域、ニーズに応じたEVの提供」が現実のものとなりつつある。
充電ステーション網、EVと家庭用蓄電池を使ったVPP(仮想発電所)、企業向けの大型蓄電設備など、EV以外の事業も着実に成長している。総合エネルギー企業としてのテスラに、見たところ死角はなさそうだ。もし、テスラに死角があるとすれば、マスク氏の想定外の言動に、消費者や投資家がついていけなくなるリスクぐらいではないだろうか。
【プロフィール】
土方細秩子(ひじかた・さちこ)/ジャーナリスト。京都市出身、同志社大学英文科卒。ロータリー財団奨学生としてボストン大学大学院コミュニケーション学科修了。TV番組制作を経て、フリーランスライターとして自動車産業を中心に幅広いジャンルの取材・執筆活動を続けている。フランス滞在後、1993年よりロサンゼルス在住。