イーロン・マスク氏率いる米自動車メーカー「テスラ」に思わぬ逆風が巻き起こっている。先日発表された2023年1−3月期の決算内容が悲観され、株価が急落する局面もあった。これまで急成長を続けてきたテスラに何が起こっているのか。それでもマスク氏が強気な姿勢を崩さないのはなぜか。在米ジャーナリストの土方細秩子氏が、テスラを取り巻く市場環境と今後の戦略を読み解く。
自動車事業の収益力が下がっている
2023年4月19日、テスラが今年1−3月期の決算報告を行った。内容としては、純利益が前年同期比で24%下落、一方で車の売上高は199億6000万ドルに達し、前年比18%増だった。これは売上高が増加した一方で、自動車事業の収益力が下がっていることを意味する。
これを受けて、翌20日の米国市場でテスラ株は10%近い下落を見せた。テスラの今後に対する悲観論も目につく。
しかし同社CEO、イーロン・マスク氏は、「原料の高騰、テスラの全ての工場がフル稼働していないこと、米国の利上げによる実質的な車両価格の上昇」などが原因で、「少ない車を高いマージンで売るよりも多くの車を売ることの方が重要だ。今後完全自動運転システムが完成すればマージンも上向く」と、あくまで強気の姿勢を崩さない。
なぜマスク氏は強気な姿勢でいられるのか。テスラを取り巻く市場環境や、その戦略をつぶさに分析していくと、その理由が見えてくる──。
相次ぐ値下げ戦略の意図
テスラは決算報告の前日に同社のベストセラーである「モデルY」と「モデル3」の値下げを発表している。今年に入り実に6度目の値下げで、これにより「モデルY」は年初より20%、「モデル3」も11%の値下げとなっている(※株価下落後、テスラは「モデルS」「モデルX」を2~3%値上げした)。
テスラが自動車産業を様々な意味で牽引していることは間違いない。そんな優位な状況でも、テスラが値下げ戦略を取っている最大の理由は、落ち込みつつあるシェアを回復しようという狙いがある。
米国内のEV販売において、テスラ車が占める割合は昨年同期には70%を超えていた。だが、今年1−3月期には54%程度と低下している。フォードやGMなどが積極的にEV車を出しているほか、欧州メーカーの参入も目立つためだ。