中国独自の取引決済システム「CIPS」の広がり
さらに注目すべき点は、中国国内に限れば、貿易における人民元の使用割合がドルを上回ってきた点である。
国家外貨管理局は4月21日、国内の非銀行部門が国内の銀行を通して非居住機関、個人との間で発生させた支払い、受取に関する3月の統計データを発表した。これは簡単に言えば国境を跨いだ資金のやり取りを示す統計だが、支払い側で人民元がドルを初めて上回った。受け取り側を加えた取引全体に占める割合でも、人民元は48.4%となり、ドルの46.7%を上回った。なお、ドル以外ではユーロが2.5%、円、香港ドルがそれぞれ0.7%、その他が1.0%であった。
遡ることができる最も古いデータは2010年1月であるが、この時の比率は、人民元は0.3%に過ぎず、ドルは83.0%であった。2015年8月に人民元が切り下げられ、同時に制度変更が実施された影響などから、一時為替レートが大きく人民元安に振れ、人民元比率が一時後退した局面もあったが、2017年2月(人民元15.6%、ドル72.5%)あたりを境に人民元比率はしっかりとした上昇トレンドを形成している。
ロシアに対する金融制裁にみられるように、米国の覇権主義が一部の非米同盟国に対してドル依存によるリスクを意識させている。また、欧米金融機関の行き過ぎた収益至上主義がリーマンショックを生み、最近では金融機関の信用不安を引き起こすなど、国際金融市場を不安定にさせており、ドルを保有することのリスクを強く意識し始めている国もある。
冒頭でSWIFTを通じた貿易決済の状況を示したが、中国は独自の取引決済システム(CIPS)を2015年に稼働させている。2023年3月末時点で、直接取引に参加する機関は79、間接的に参加する機関は1348に達しており、そこで使用される通貨の95%以上が人民元だ。2022年のCIPSを通して決済された金額は96兆7000億元に達しており、前年比で21.5%増加している。正確な統計は見当たらないが、本土の複数のマスコミ情報によれば、SWIFTで決済される人民元よりも、CIPSで決済される人民元の方が多いようだ。水面下では、SWIFTの統計で示されている以上に人民元の国際化は進んでいる。
もし、仮に、CIPSを通じた貿易決済がこのまま膨らみ続け、ドル一極体制が崩れ、人民元がドルを脅かす存在となれば、それは結果として、中国を中心とした新しい金融市場が大きく膨らむことを意味する。
共産党は今後も本土金融市場を完全に開放することはないとみられ、そうであれば、金融市場を実質的にコントロールするのは中国ということになる。それは、これまで国際金融において大きな存在感を示し、巨額の利益を上げ続けてきた欧米金融機関にとって、収益基盤を奪われることを意味する。