日本の食卓に馴染み深い「干物」だが、消費額も生産量も減少傾向にある。総務省の家計調査によると、「塩干魚介」の1世帯当たり年間支出額は、2000年は1万9876円だったのが、2022年には1万3024円となり、約20年で約35%減少している。生産量の減少はより深刻だ。農林水産省の「水産加工統計調査」を見ると、「塩干品」の生産量は2004年の23万4981トンから2021年には11万7757トンと、約15年でほぼ半減した計算になる。
日本の食卓の「干物離れ」が進行するなか、廃業する干物業者も出ている。干物業者と消費者の声から、干物業界の厳しい実情に迫った。
「最後に食べたのがいつか思い出せない」
まずは消費者の声から紹介しよう。「干物を最後に食べたのがいつだったか、思い出せない」と話すのは、メーカーに勤務するAさん(30代男性、都内在住)だ。
「実家にいた20年前くらい前は、あじの開きがよく夕食のおかずとして出ていました。一人暮らしになったのは10年前ですが、自分で魚を焼いたことは一度もありません。グリルを洗うのが面倒だし、部屋に魚のにおいがつくのもイヤだからです」(Aさん)
IT企業勤務のBさん(40代女性、都内在住)も、「最近干物はまったく食べていない」というが、決して魚が嫌いというわけでなく、「むしろ好き」。ではなぜ、干物を食べないのか。
「昔は、干物は魚をさばく必要がないし、生ものよりは保存がきく、といった点で重宝していました。安いのも魅力で、5枚で500~600円ぐらいのあじの開きをよく買っていたものです。でも、だんだん値段が上がっていって、前と同じ金額だと、身が薄くて小さなものしか買えなくなりました。今は、そこそこ肉厚でおいしそうなものを買おうとすると、1枚数百円するんですよね」(Bさん)