近年、普及が進んだ「○○ペイ」などのキャッシュレス決済サービスが、ここにきて大きな転換期を迎えている。スマホでの決済手段の代表格である「PayPay」がサービス内容を大きく変更。背景には、巨大企業間の“全面対決”があるという──。
5月1日、ソフトバンクグループ傘下のスマホ決済サービスPayPayは、8月からの「他社クレジットカード利用の停止」を発表した。
PayPayを利用する場合、事前に銀行口座などからチャージした残高からの引き落とし、登録済みのクレジットカードでの支払い、ソフトバンク携帯の利用料金とまとめて支払いなどの方法がある。それが8月以降は、クレジットカード支払いの場合、子会社が発行する「PayPayカード」に限定され、楽天カードなどとの連携が打ち切られることになる。
登録者数5664万人を誇るスマホ決済サービスシェアトップのPayPayだが、利便性を犠牲にしたサービス変更を決断して、何を目指そうとしているのか。
今が勝負の時
経済誌『経済界』編集局長の関慎夫氏は、ソフトバンクグループの社長・孫正義氏(65)の狙いをこう読み解く。
「孫さんは“収穫の時期が来た”と踏んでいるのでしょう。かつて高速インターネット回線のシェア争いでもそうでしたが、ソフトバンクはどんなに赤字を出しても他社より格安でサービスを提供して、まずはシェアを奪うという戦略を立てる。スマホ決済で後発だったPayPayも、スタート当初は手数料ゼロなどの大盤振る舞いで加盟店を集め、100億円キャッシュバックキャンペーンなどを打ち、一気にシェアトップに登り詰めました。いよいよこれから利用者を囲い込み、投資した分を回収する『収穫期』に入るのだと思います」
2018年10月にサービスを開始したPayPayは、マイナポイントなども追い風となりサービス開始からわずか4年半で取扱高10兆円を超えた。
その先に孫氏が見据えるのは、ライバルと位置付けられる楽天グループ社長・三木谷浩史氏(58)の“本陣”に斬り込むことだという。
「4700万人のソフトバンク携帯ユーザーと5700万人のスマホ決済ユーザーを抱えながら、PayPayカードの会員数は1004万人にとどまる。そこの連携を強めれば、傘下の様々なサービス利用者を増やせるという目論見があるのでしょう。
対する楽天はクレジットカード部門で成功し、それを入り口にネットショッピングや証券会社、銀行、旅行業といった自社サービスと紐付け、多くのユーザーを『楽天経済圏』と呼ばれる消費サイクルに抱え込むことに成功している。孫さんの次なる野望は、そうした独自の経済圏の構築なのでしょう」(関氏)