満を持して臨んだ広島サミットを終えた岸田文雄・首相は、支持率もV字回復して絶好調。経済財政諮問会議では「構造的賃上げが最重要課題だ」と強調して見せた。だが、その衣の下には鎧がのぞいている。【前後編の前編】
一連のサミット外交が一区切りしたいま、政治の重要課題は内政に移る。岸田首相は手始めに6月に発表する「骨太の方針」(経済財政の基本方針)に異次元の少子化対策の詳細と財源を盛り込むとしているが、そこで財源負担を高齢者にツケ回ししようと考えていることがわかってきた。
骨太の方針には、財務相の諮問機関「財政制度等審議会」の提言が反映される。5月11日に開かれた財政審の財政制度分科会では、早速、少子化対策の具体的な財源が議論された。そこで浮上しているのが、高齢者の医療費や介護保険の負担増だ。
財務省が同審議会に提出した資料によると、少子化のペースは2017年の人口推計より約7年早く進行し、2023年の出生数は73.9万人(2017年推計では84.2万人)と予測されている。政府の子ども関連予算(地方負担含む)は2013年度の4.2兆円から2022年度には8.6兆円に増えたが、それでも少子化は止まらない。岸田首相はこれをさらに「倍増させる」と打ち出した。
そのためには、新たに巨額の財源が必要になる。
首相は「少子化対策は社会全体の問題、社会経済の参加者全体が広く負担していく視点も重要」(衆院厚生労働委員会)と財源をまず社会保険料の引き上げで賄う方針だが、「社会全体で負担」という言葉にはウソがある。
財務省資料では少子化対策の財源について〈現役世代等の保険料負担の増加を「極力抑制」する取組みを行うこと〉として、そのかわりに次のように提言している。
〈昨年10月には一定所得以上の後期高齢者に2割負担が導入されたが、これを更に進め、原則2割負担とすることも今後の課題〉
介護保険についても、
〈利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討していくべきである〉