【ケース5】親が散骨を希望している
《相談》
父は「お墓の管理で子どもたちに迷惑をかけたくない。先祖の墓は墓じまいをしてスッキリさせるから、俺が亡くなった時は散骨してくれ」と言っています。でも、私自身は手を合わせる場所がほしいと思っています。
「このケースでつらいのは、お子さんがご自身の希望と親の望みとの間で、気持ちが引き裂かれてしまっていることです。親の希望は叶えてあげたいけれど、自分にとっての供養ができない、これはとてもつらいことです。『子どもに迷惑をかけたくない』と言う方は少なくありませんが、子どもにとって何が迷惑なのか、お墓のことについて、親子でよく話し合っておくことが大切です」
ちなみに、一定のニーズがある散骨だが、現在の日本には散骨に関する法律がなく、節度をもって行う限りにおいて問題はないだろう、ということで実施されているのだとか。
「お骨を撒く、ということを法律が想定していなかったのです。今後、何かしらのルールができていく可能性もあります。いずれにせよ、すべての遺骨を散骨してしまうと、遺された人が手を合わせる場所がなくなってしまいます。お墓という『会いにいける場所』があることが、遺された人の拠りどころになることがある。そのこともちゃんと考えて、決めていただきたいと思います」
この先、改葬・墓じまいをする人は増えていくはず。誰もが納得する墓じまいをするために必要なのは、関わる人それぞれに“思い”があることを忘れないことかもしれない。
【プロフィール】
寺田良平(てらた・りょうへい)/「日本仏事ネット」代表取締役、1級お墓ディレクタ―。「お墓の正しい情報」を発信、相談業務を行う「全国墓石・石材店情報」 、「全国霊園・墓地情報」を運営。お墓や埋葬について、数多くの相談に対応している。そのほか、専門紙やビジネス系メディアで積極的に情報発信も行っている。
取材・文/鈴木靖子