世界に先駆けて実用化を成し遂げるのはどこか
供給過剰が発生するのは、発展が段階的に進むことに起因する。技術進歩は直線的に進むわけではないのだ。証券日報は上海交通大学太陽エネルギー研究所の沈文忠所長の意見として、「太陽電池は現在、PERC(Passivated Emitter and Rear Cell)技術が主流だが、今後3~5年の間でTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)への転換が起こるだろう」といった予想を伝えている。
その先は、薄くて、軽く曲げることができ、これまでは難しかった自動車ルーフのようなところにも設置することのできるペロブスカイト型太陽電池が代替することになりそうだ。こうした段階的な技術進歩によって、従来の設備が更新される。技術進歩についていけない企業は淘汰され、それと同時に新技術の開発に特化したベンチャー企業に発展のチャンスが生まれ、全体として市場は段階的に大きく成長する。
日本のマスコミは次世代型として注目されているこのペロブスカイト型太陽電池の研究について、日本が先行して開発に成功し、高い技術水準を有していると伝えている。しかし、実用化の点では日本企業の存在感は薄い。
やや古い統計であるが、2021年における中国の太陽光発電量は340.86TWhで世界最大で、第2位米国の2倍、第3位日本の3.8倍の規模である(出典:米国EIA)。この巨大市場と国家による産業振興を背景に、アニマルスピリッツに富む中国の起業家たちがアグレッシブな生存競争を続けている。
中国の南京工業大学は2022年11月、「スクリーン印刷技術に基づくペロブスカイト型太陽電池」に関する研究成果をイギリスの科学誌「Nature」に掲載している。
また、ペロブスカイト型太陽電池の製造を目的としたベンチャー企業の大正(江蘇)微納科技が2018年に誕生している。上場企業では隆基緑能が積極的に開発を続けており、前述のSNEC2023展示会において、ペロブスカイト型太陽電池の試作品が世界第3位となる31.8%の変換効率(ドイツFraunhofer ISEによる検査結果)を達成したと発表している。
足元では、供給過剰が深刻となりつつある中国の太陽光パネル産業だが、国家全体の産業の発展という観点からとらえれば、現在の状況はむしろ望ましいとも言える。生き残りをかけて必死に努力する企業や、研究開発力、技術力で以て新たに市場を開拓しようとする企業たちの激しい競争によって、世界に先駆けて先端技術の実用化を成し遂げてしまうのではなかろうか。中国企業に勝つのは容易ではない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。