世帯年収400万円以下を対象とした開成の奨学金
奨学金といっても様々なものがある。中学受験を描いた漫画『二月の勝者』(高瀬志帆・小学館)で、両親が離婚をすることになり、経済的に私立に通うのが難しくなった少年が、開成中学の奨学金の存在を知るエピソードがある。
この奨学金は実在するもので、2020年から開成は新入生向けに授業料免除の「開成会道灌山奨学金」を始めた。世帯年収400万円以下の家庭を対象とし、受験前に申請をし、開成中学に合格したら必ず入学するという条件である。
目的としては生徒の多様性を求めるものであろう。取材をしていると、御三家を狙う層は6年生にもなると、月に20万円ほどの塾代を支払うのが「普通」であるのに驚く。結果、御三家に入学してくるのは課金された子たちばかりになってしまい、裕福な家庭の子たちばかりになってしまう。経済力が高くない家庭に生まれ育ったが、勉強が好きな生徒にも入学してもらいたいという意思が見える。
麻布、雙葉、武蔵…難関校に多い「在学生向け」奨学金制度
さて、開成は他にも「在学生向け」の奨学金を設けている。こちらは家計が急変して、学費の支払いが難しくなった生徒の救済処置のためのものだ。私がこの「在学生向け」の奨学金を知ったのは、個別指導塾の経営者を取材した時にこう聞いたからだ。
「今はお父様たちの経済力がそうは安定していないから、経済的な理由でせっかく入った学校を辞めなくてはいけないケースが増えてきたんです。ですから、開成みたいな超名門校でも在学生のための奨学金制度が設けられたんです」
このような在学生向けの奨学金や授業料免除制度は他の中高一貫校でも多く設置されている。麻布中学では、「授業料特別免除制度」、武蔵も「武蔵高等学校中学校奨学金」があり、在学生が家計の急変で学校に通うのが難しくなった場合の救済処置がある。御三家以外でも浅野では「浅野学園奨学金制度(貸与)」で生徒に学費の貸し出しをする。
女子校でも雙葉では経済的に必要になった場合に申請できる、学園と同窓会による2種類の奨学金がある。他の多くの私立中高一貫校で在学生向けの奨学金を設定している。偏差値が高い名門校ほど手厚い傾向が感じられる。
一方、中堅校の奨学金は成績上位者を学費免除にするといった「特待生制度」だ。御三家や難関校の救済制度にはそういった成績条件はなく、質や目的が全く違ってくる。高い偏差値の難関校ほど、このような“救済処置”を導入しているのだ。
課金の末に入学しても学費を払えない可能性
在学生向けの経済的な救済制度はなぜ存在するのか。いくつか理由はあるだろうが、一つ考えられるのは、御三家などの難関校に子どもを入学させるためにはそれなりの経済力が必要だが、入学後、その高い経済力を失っても通わせられるという安心感を受験生の保護者に与えられるからではないか。
ここで見えてくるのは、先の経営者のコメントにもあるような中学受験に何百万円も課金するだけの経済力がある家庭であっても、入学後に「パパが会社をリストラされたのでもう私立中学には通えません」ということが多々あるということだ。たとえば、開成の学費は年間67万6200円で私立校の中でも安い部類に入ることで知られる。それでも、月額5万7000円ほどを払えないから、せっかく入った開成を辞めないといけない、というケースが想定されているわけだ。