残念ながら、この賃金の上昇は過去30年間起きませんでした。そのため、日銀はずっと低金利を続けてきたのです。しかし、今年の春闘によって、欠けていたパズルのピースがようやくはまりそうになっています。
まだ金融緩和が続くと考える理由
「賃金が上がってきたから、金融緩和(低金利状態)は終わってしまうのか?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。私の見立てではまだまだ金融緩和は続くと考えています。というのも、日本経済を取り巻く状況には、まだ3つの懸念点が残っているからです。
1つ目は、賃上げが日本全体に波及しているのかどうか。冒頭で述べたように大手企業の賃上げが報道されましたが、賃上げが中小企業やパート社員にも広がっているかは未知数です。賃金上昇率は、連合という大きな労働組合団体が集計結果を発表しており、その数値が報道されてきました。しかしながら、その傘下にある労働者数は約200万人です。日本全体の就労者数、約6900万人の3%程度を占めるに過ぎません。残り97%の動向がつかめず、日本全体の状況でいえば、賃上げが行われたと断定するにはまだ不確実だと言えます。
2つ目は、賃上げが持続するのかどうか。2022年度は輸入物価上昇に伴い、物価が上昇しました。これを受けて「家計を守るために賃上げしよう」という声が政治・経済界で大きくなり、今年の春闘では賃上げが実現しました。しかし、日銀の予想によると2023年度以降は物価上昇率が下落すると考えられています。物価上昇が収まると、企業からすると賃上げする理由がなくなる可能性があります。
3つ目は、海外経済が好調を維持できるかどうか。欧米の高いインフレ率を踏まえ、世界各国の中央銀行は利上げを推し進めてきました。利上げは経済に対してブレーキをかける効果があるため、今後は景気後退を引き起こす可能性があります。実際、シリコンバレー銀行やクレディスイスなど、多くの金融機関で経営不安が発生しました。
もし、海外景気が後退局面に入ると、日本経済にも悪影響が生じます。そうなると、利上げどころの話ではなくなります。「金融緩和を続行して景気を下支えしよう」という“非常事態モード”に日銀が切り替わると考えられます。
以上の3つの懸念点が解消されていない以上、私は日銀がすぐに利上げに転じる可能性は低いと見ています。