労働人口の減少に加え、産業構造も変化
とはいえ、中国の労働市場に問題がないわけではない。まず、労働人口が減少している。ピークである2011年末の労働人口は9.4億人であったが、2022年末には8億7556万人まで減少している。就業圧力が小さくなるといった有利な面もあるが、それ以上に子育て世代で働き盛りの消費意欲の高い人々の数が減ることによる需要減少効果の方が大きい。
一般論だが、中国の80年代、90年代生まれは、その上の世代と比べ淡泊な性格の若者が多いと言われている。結婚して、子供を産むことにそれほど積極的ではないようだ。今後、急速に進むだろう少子高齢化によって潜在成長率が大きく下がりかねない中、一方で産業構造の変化が加速している。
重厚長大産業や加工組み立て産業などの単純作業員への需要は縮小する一方、ハイテク産業や、新しい産業で必要とされる高度な専門知識を持つ技術者や、営業、マーケッティング、企画などの分野で必要とされる総合力の高い人材が求められる。現在の大学教育によって供給される人材と産業界が求める人材との間でミスマッチが生じている。
国際的にみて中国の大学入試試験のレベルは高いが、入ってしまえば卒業までが比較的楽な点は日本とよく似ている。北京大学、清華大学、復旦大学など国際的に評価の高い大学もあるが、中国全体としてとらえると層が薄い。国内で供給される人材集団のボディーとなる部分を強化するためには、卒業条件の引き上げに加え、理系、文系のバランスや、それぞれの科目内容などに関する改革が必要だろう。
また、産業界をリードするエリート層については、強い上昇志向、高い社交性を持ち、かつ勤勉な若者が多く、ビジネス面では主に米国のビジネススクール、科学技術の面では日米欧の大学、研究機関が積極的に受け入れることで、これまでは中国の教育レベルの不足部分を補ってきた。しかし、米中関係の悪化、日米欧で発生している一部の技術者、研究者たちによる国際ルールから逸脱した行為などにより今後、そうしたルートは狭められる可能性がありそうだ。