トレンド

「海外でパスポート紛失」「健康保険証は失効」 過去に大事なものを何度も失くした60代女性のマイナンバーカードへの不安

小学校低学年から忘れ物が多かったという“オバ記者”こと野原広子さん

小学校低学年から忘れ物が多かったという“オバ記者”こと野原広子さん

健康保険証の資格を失った経験

 でも、私のマイナンバーカードに対する心配はそこだけじゃない。もっとアテにならないのがこの私よ。

 というのも、小学校低学年から通信簿に「忘れ物が多い」と書かれ、大人になってもキャッシュカードやクレジットカードを何度再発行したことか。初めての海外旅行ではパスポートをなくして2週間、現地で足止めを食らったし。

 大事なものをなくして困った経験といえば、ものすごく言いにくいけれど、実は私、40代後半のある一時期、国民健康保険証をなくしてしまったことがあるの。紛失じゃなくて、保険料を滞納し続けて資格を失ったのよ。

 原因はギャンブル依存症。仕事でパソコンの前に座るよりずっと長い時間、パチンコ台の前に座っていたら、パンドラの箱を開けたようなものよ。借金はふくらむばかりで、ベッドの中で飼い猫の背中をなでながら「いつまで生きていけるのかな」と深夜にどれだけ天井の節穴を眺めたか。

 そんなときよ。「こんにちは~」と、玄関のドアの向こうからやけに明るい声が聞こえてきたんだわ。私の住んでいる安マンションの4階までわざわざ階段を上ってくるのは、宗教の勧誘か、ヤバい商品の営業か。でも、その曇りのない声は彼らとはどこか違う。それで思わずドアを開けたら、区の健康保険課のAさんが立っていたの。

「すみません。払えてなくて」ととっさに謝ったら、「そうみたいですね。でも、困るでしょう」と言うから、「そうなんですよ。実は胸にしこりがあって、病院に行かなくちゃと思っているんだけど、なかなか……」と言葉を濁したら、明るい声で「事情を話していただける?」と言った彼女の声のトーンは20年近くたったいまも耳の奥に残っている。

 こういうのを人間力っていうのね。誰にも話せなかったギャンブル依存症のこと、そのせいで金銭的に逼迫していることを、2才上のAさんにはスルスルと話せたのよ。Aさんは私の話にちっとも驚かず、「ふむふむ。なるほどねぇ。現金を手にするとどうしてもギャンブルをせずにはいられなくなるのね」と、ごく当たり前のことのように受け止めてくれたんだわ。聞けばAさんも家庭に問題を抱えていて、それを「まぁ、それも私の毎日のアクセントね」などと言って、ふふふと笑うんだわ。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。