美術家・作家の赤瀬川原平氏が「老人力」を提唱し、社会現象となったのは1990年代後半のこと。老化による心身の衰えを「老人力」という言葉でプラス思考に転換した。新著『シン・老人力』が話題の精神科医・和田秀樹氏(63歳)も、人生100年時代はこうした発想の転換が重要性だと説く。この時代になぜ、新たな老人力が求められるのか。和田氏に聞いた。
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日本経済が右肩上がりだった時代を生きてきた今の60代、70代は、今の日本はさまざまなしがらみと常識が絡み合って、息苦しい社会になっていると感じているのではないでしょうか。
1960年代、世界中で若者たちが、既存の価値観に対して同時多発的に反乱を起こしました。政治的にも文化的にも、旧来の“常識”に対して「NO!」を突きつけたのが今の70代、それを見ながら変革の波にのってきたのが今の60代です。昨今の日本社会に息苦しさを感じていないはずがありません。
そんな閉塞状態を打ち破るのは、不良的に生きる「シン・老人」たちによる、価値観の“再革命”です。「人生100年時代」に適応するには、健康に対する考え方から、社会との関わり方まで、旧来の常識から脱して、時代の価値観を転換することが求められます。
今の高齢層は本質的に、自分たちの実感以上に、経済力であれ、発言力であれ、体力や行動力であれ、世の中にインパクトを与えるパワーをもっています。それがシン・老人たちのもつパワー、いわば「シン・老人力」です。
まずは元気な期間をできるだけ長く保ち、その力を十分に発揮していただきたいと思うのです。
高齢者ならではの「力」と言えば、かつて流行語となり、大きな話題を呼んだ「老人力」が頭をよぎる人も多いのではないでしょうか。
それまでは「耄碌(もうろく)」「ボケ」などと言われ、ネガティブに捉えられていた老化による衰えを「老人力がついてきた」と言い換えて、ポジティブなイメージに変換したのは、美術家・作家の赤瀬川原平さんです。
もっとも赤瀬川さんが提唱した「老人力」はパワーとしての力ではなく、「脱力」を意味していました。高齢者にはそんな「脱力」がたしかにあります。