「パワー」から「脱力」への変更も必要
いつまでも若々しく元気であり続けたいと行動していても、いずれは老化による脳や肉体の衰えと向き合う時期がやってきます。もの忘れがひどくなったり、足元がおぼつかなくなったりもします。これは自然の摂理なので避けることはできません。
それでも「力を抜いて、自分らしく生きる力」が、人間には本質的に備わっているので、にこやかに暮らし続けることができます。これこそが赤瀬川さんの伝えたかったことであり、「老人力」そのものと言えそうです。
人生100年時代では、定年後のいわゆる高齢期が30~40年ほど続き、社会人としての現役生活と同じくらい長くなります。60代、70代の元気で活動的な「パワー」としての「力」から、80代、90代でつく「脱力」としての「力」へと、「力」のあり方を変更することも必要です。
65歳以上の高齢者が総人口の21%を超えた社会は「超高齢社会」と呼ばれます。日本がその21%ラインを越えたのは2007年で、15年以上も前のこと。今や、世界に類を見ない超高齢社会を独走しているのが日本の現状です。
ただし一世代前と違うのは、現代の高齢者は元気で若々しい人たちがたくさんいること。容姿の変化だけではありません。30年以上、高齢者専門の精神科医として高齢者に接してきた私は、高齢者の意識の変化もはっきりと感じています。
かつては「長生きすることが幸せ」という人が大多数でしたが、今では「長生きするより元気でいたい」へと変わりました。「寝たきりにはなりたくない」「ボケたくない」という人がほとんどで、「とにかく長生きしたい」という人はまず見当たりません。
さらに、「定年になって、ようやく時間に縛られず、好きなことに取り組めるようになりました」「子どもが独立したから、これからは人生を楽しみたい」と、高齢期を肯定的に捉える人が増えた実感があります。
※和田秀樹・著『シン・老人力』より抜粋して再構成