認知症の親が突然、行方不明になる──そんな出来事は誰の身に起きてもおかしくない。6月22日、警察庁は2022年の「認知症による行方不明者」が過去最高の1万8709人だったことを明らかにした。統計を取り始めて以来、10年連続で増加し、2012年からは約2倍に増えている。
認知症によって引き起こされる「一人歩き」の理由は人によって様々だが、発見時に、「なぜそんなところまで一人で行ってしまうのか」と周囲が驚かされるパターンが少なくない。東京都府中市に住むAさん(65)が自身の経験を明かす。
「当時93歳だった母は、週のうち6日は施設に入所していました。週1日だけは自宅に戻って過ごしていたのですが、その1日にいなくなってしまった。私が夜に眠っていた間のことでした。警察にも連絡し、見つかったのは2日後。なんと30kmも離れた新橋にいました。しかも深夜から早朝に家を出たのでパジャマ姿のままです。
実は母は現役時代、キャリアウーマンとして新橋に勤務しており、当時を思い出して徒歩で向かったらしい。姉にも怒られるし、途中で万が一のことが起きていたらと考えると、背筋が凍りました」
介護アドバイザーの横井孝治氏は、Aさんの母のようなケースはよくあることだと語る。
「認知症の方が、突然、過去の習慣を思い出して、再現行動をとり始めるケースはよく見受けられます。現役時代のように会社に向かおうとして電車に乗り、辿り着けずに迷子になったり、今は存在しない、かつての自宅に帰ろうとして遠方に向かったりするパターンです」
また、認知症の人が自宅を出た後、何日も外を徘徊してしまう要因として、端からは“普通に見える”ことも大きい。
2014年8月には、横浜市の施設から行方不明になった当時83歳の認知症男性が、警察と2度も接触しながら保護されず、2日後に公園で死亡しているところを発見される事件があった。
男性は警察官の質問に実際より20歳若いデタラメな生年月日を伝えるなどしていたが、担当した警察官は男性の答えを疑うことはなかったという。