GPSを鞄のなかに
こうした悲惨な事態を招きかねない「認知症による行方不明」には、どう対応すればよいのか。基本的な対策としては、衣服に住所と名前を縫い付けておくことが備えとなる。近年では、GPS機能のついたスマートフォンを利用するのが居場所の特定に有効とされているが、万全ではないようだ。
「認知症の方など高齢者はスマホを持ち歩く習慣がない人も多い。それよりも、よく持ち歩く鞄や靴に、市販の小型GPS端末を入れて居場所を把握できるようにするのが良いでしょう。月額数百円程度から利用できます」(横井氏)
市区町村や地域のネットワークが活用できることも覚えておきたい。介護評論家の高室成幸氏が言う。
「自治体の地域包括支援センターに、『認知症の親が一人でこういうところに出かけて心配なんです』と事前に伝えておくと、いざ行方不明となった時の初動が早くなることが期待できます」
また、より早期の発見を目指すには、本人の顔や全身を様々な角度から撮影した写真や、歩いている場面の動画を準備しておくことも有効だ。
「行方不明となった時に、市区町村などが運営する地域の認知症高齢者見守りネットワークに情報として流すことができます。ネットワークに参加する警察やタクシー会社らに情報をスムーズに渡すことができれば、その分、早期発見へとつながるでしょう」(同前)
「県認知症行方不明者家族の会」を立ち上げた沖縄県在住の安慶名達也さん(55)も、自らの経験からこう注意を促す。
「家族と同居していても一人になる時間はあり、行方不明になる危険は常につきまといます。散歩好きなど、認知症患者本人のライフスタイルのあり方は、地域のみんなで守っていくしかない。急速に無縁化が進むように思える時代ですが、草の根で見守りをつなげていくしかありません」
経験者の言葉を重く受け止めたい。
※週刊ポスト2023年7月14日号