「統一教会は、2009年のコンプライアンス宣言(勧誘する当初から教団名を明示することを信者に徹底させる)以降は、被害はないといっていますが、103人のうち、10年以内の(正体を隠されて勧誘されたなど)の被害が53人もいます」(阿部弁護士)ということからわかるように、この宣言が外向きのものであり、信者内部では徹底されていなかった教団の実態が浮き彫りになっています。
「今回、統一教会の2世(30代元2世女性信者)の方が(第四次の集団交渉の)通知人として入っています。両親が信者で合同結婚式に参加して日本人と結婚しました。その相手から激しいDV(ドメスティック・バイオレンス)や経済的支配等を受けて、心身へ重大な影響を生じたとして、1000万円の慰謝料を請求しています」(同弁護士)
弁護団は無報酬で活動
被害の実態について、山口広弁護士がさらに説明します。
「(統一教会では)合同結婚式(祝福)を受けなければ、地獄で永遠に苦しむことになる。先祖も苦しむといわれます。彼女は母親から強く勧められて、参加申込書を出しました。男性も女性も、経歴と今の仕事と年収、病気はないかなどを書いて提出をします。本人は写真を見て、良い人かなと思って結婚しました。実際には、うつ病を持っている男性でした。障がい者手帳も持っていて、生活費は一切出してくれなかった。
その時、教団の家庭部長に相談したが『あなたの信仰の力で夫を教会にきちんと通わせて、いい家庭を作るように頑張りなさい』とだけ言われて、男性によるDVなどについては何も指導もしてもらえなかった。しかも所属している教会長も男性の嘘を知っていて、『書きなさいと言われて書いたんだ』と夫は開き直る。『合同結婚式に参加すると、働いて、俺を生活させてくれる女であれば、誰でもよかった』と言われて女性は絶望しました」(山口弁護士)
結局、彼女は離婚をしました。私も信者時代に「合同結婚式で結ばれた相手との離婚は、神様の祝福を破棄することであり、サタンより下のサタンの立場になる」と教えられてきました。信仰がある人ほど、別れられずに苦しむことになります。教義とのはざまのなかで、彼女は本当に苦しい時を長く過ごしてきたのだと思います。しかし当時のアベル(信仰上の先輩に当たる立場)である家庭部長は、彼女の心に寄り添うような対応をしていません。彼女の抱いたと絶望と苦しみが、今回の1000万円の慰謝料請求になっています。
村越進弁護団長は、声明で「昨年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件から約1年が過ぎ、同事件は決して許されるものではなく、二度とこのような事件が起きないようにしなければならない」として、「この事件の背景とされる統一教会による高額献金や家庭崩壊等の問題はいまだ続いており、被害防止とその救済には、社会全体で取り組む必要がある」と続けます。しかし教団は「過去の被害に真摯に向き合うことも責任をとることもせず、信者であった者が支払った献金などの記録開示にも応じず」に、不誠実な対応を続けていると村越弁護団長は指摘します。
教団との交渉は一筋縄ではいきません。そうしたなかで長期化も予想されます。被害者の多くは旧統一教会に多額の献金をしており、お金がないなかで、弁護団に相談をします。その事情のなかで、当然、弁護士は相談者からお金を受け取ることはできません。担当弁護士らは被害者への聞き取り時の交通費などの活動費用も手弁当(無報酬)で行っています。
そこで、全国統一教会被害対策弁護団は、クラウドファンディングを7月3日から始めました。
「目標800万円のところ、現在(6日)まで360万円ほどが集まっています。本当に多くの方がご支援して下さっています。励まされます」と弁護団は話します。