非米同盟国の間で進む“ドル離れ現象”
みっつ目は、非米同盟国の間で進む“ドル離れ現象”だ。欧米諸国による金融制裁によってロシアは人民元建て取引を急増させており、米国に次いで世界第2位(2022年、世界エネルギー報告)の産油国であるサウジアラビアは人民元建てでの石油取引を開始するなど、産油国のドル離れが進んでいる。
BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)はドルに代わる共通の貿易決済通貨の創設を検討し始めた。8月22日から24日の日程で南アフリカの首都ヨハネスブルクで首脳会議を開催する予定だが、そこで“正式にこの方案を推し進めることを宣言する見通しだ”とBWC中文網など中国本土の複数のメディアが伝えている。
この新通貨の特徴は、金本位制度を採用しドルから完全に独立していること、デジタル通貨によるブロックチェーンを基盤とした分散型システムを導入することなど。新通貨を利用することにより各国は、適切な量の金を保有することで、ドルの保有額の大小とか、対米関係の良し悪しによって、貿易取引の安全性が脅かされることがなくなるといったメリットが生まれる。つまり、ドルあるいはドルの価値に裏付けされたグローバル決済システムからの離脱が可能となる。BRICSとしては非米同盟国に加え、EUをこの通貨システムに巻き込みたい意向であろう。
この非米同盟国の間で進むドル離れが今後、国際通貨であるドルの地位を脅かすほど自律的に急速に進展するとは思わないが、米国の金融システムが不安定化し、ドルの価値が大きく低下するような状況となれば、それが引き金となってドル離れが不可逆的に大きく進む可能性もあるだろう。
投資家の立場でより安全で安心な運用を考えるならば、ドル資産に集中投資するのではなく、円でも、人民元でも、非ドル資産に広く分散投資することが望ましいのかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。