社会と折り合いがつけられるよう、必死でがんばってきた。それでもやっぱり自分は周りの人と同じようにできない。そう実感する毎日がつらくて苦しい──。そんな大人が増えているという。しかしその生きづらさは、努力不足のせいでも、性格が悪いせいでもなく、脳の特性、つまり「発達障害」のせいかもしれない。
「“私は発達障害かもしれない”。そう気づいたのは25才のとき。Web制作会社で働いていた頃です。たまたま見ていたテレビ番組で、『物忘れが激しい、行間が読めない、片づけられない……そういう人たちは発達障害の疑いがある』と取り上げられていたんです。その特徴のほとんどが私に当てはまり、“これだ”と思いました」
と話してくれたのは、イラストレーターの雨谷梼里さんだ。すぐに発達障害について調べたという。
「私は小さい頃から、人の目線で物事を考えられなくて、学校の先生からは “感謝の気持ちがない”“傲慢だ”などと言われてきました。それで自分は性格が悪いのだと思っていました。大人になり、憧れだったデザイン関連の仕事に就いても、自分ではできているつもりが、結果的に周りに迷惑をかけてしまう。
努力しているつもりでもできていない。だから、“自分には能力がない、ダメ人間なんだ”と思って生きてきたんです」(雨谷さん)
発達障害とは脳の機能に問題がある状態
雨谷さんの問題は、発達障害の典型的な特徴だと、精神科医の井上智介さんは言う。
「発達障害とは、脳の機能的な問題のせいで、日常生活や学業、就業上に弊害がみられる状態で、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などを総称します。
ADHDの主な特徴は、落ち着きがなく、集中力が続きにくいことにあります。そのため、忘れ物をしやすかったり、遅刻が多かったり、マルチタスクが苦手だったりします。衝動買いや、一方的にしゃべり続けるなどの傾向もあります。
一方、ASDは人とかかわることが苦手で、場の空気を読んだり、相手の気持ちや暗黙のルールを理解することが難しく、言われたことをそのまま受け取ってしまいます。こだわりが強くて自分のやり方に固執したり、生活に支障をきたすほど感覚が過敏といった面もあります。
LDは、聞く、話す、読む、書く、計算するなどの能力の習得、活用が難しいという特徴があります」(井上さん)
いずれの場合も、知能の発達には遅れがないため、そうとは気づかないまま大人になるケースが多いのだという。