早めの受診が本人も周囲も救うことになる
井上さんは産業医として会社員の面談を行っているが、現場の実感としてここ数年、発達障害はもちろん、診断はつかないが発達障害の傾向がある“グレーゾーン”の大人が急激に増えているという。
「患者数が増えた理由としては、発達障害が広く知られるようになった影響もあると思います。本人が気づくケースはもちろん、周囲からのすすめで受診する人もいます」(井上さん)
雨谷さんは25才で受診したが、井上さんによれば、40代以降に受診し、それと気づく人もいるという。とはいえ、なるべく早く精神科や心療内科を受診した方が、適切な対応ができる。
「発達障害の人の言動は、学校や会社において、チームワークを乱すきっかけになることも。そのためにいじめに遭ったり、孤立して引きこもりになってしまうケースが多いんです。さらに、人から責められて傷つき、適応障害やうつといったほかの病気を発症し、最悪、死を選んでしまうこともあります。だからこそ、早めの対応が重要なんです」(井上さん)
雨谷さんも小学校でいじめに遭った経験がある。
「私の場合、もしかして……と思ってすぐに病院を調べました。ただ、発達障害を診てくれる病院が少なくて、どこも予約でいっぱい。受診まで2~3か月待ちがザラでした。それでもいいから自分の生きづらさの原因が知りたいと、待つ覚悟をして予約を入れました」(雨谷さん)
そしてADHDと判明した。
「発達障害だとわかって肩の荷が下りました。電話をしながらメモを取れなかったり、きちんと仕事を処理できなかったのは努力不足ではなかったし、人とのコミュニケーションが苦手なのは性格が悪いせいではないんだとわかり、安心しました」(雨谷さん)
雨谷さんにとって診断はメリットしかなかった。症状がつらい場合は投薬治療が受けられ、会社も対応を考慮してくれるようになった。さらに、障害者手帳を交付されるなど、行政からの支援も受けられることになった。
障害者手帳の申請は自治体の障害者福祉窓口で行う。このときに、厚生労働大臣が「精神保健指定医」として指定した医師の診断書と申請書が必要になる。また、自治体や年金事務所で手続きをすると、障害年金(3級で月額約5万円~、2級で月額約10万円~、1級で月額約12万円~)の受給が可能になることもある。