1995年以降に生まれた「Z世代」と呼ばれる若者たちは、10代の人格形成期をSNSに没頭して過ごした最初の世代だ。この世代は、少し上のミレニアル世代と比べて、不安症やうつ病の罹患率がはるかに高いというデータが注目されている。そして、そんな“傷つきやすい若者たち”を過剰に保護しようとして、いまアメリカの名門大学が“異常な事態”に陥っているという──。新刊『世界はなぜ地獄になるのか』でリベラル化が進んだ社会の光と影について詳細に論じている、作家・橘玲氏が解説する。
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社会心理学者のジョナサン・ハイトと、ジャーナリストで表現・言論の自由を守る活動家でもあるグレッグ・ルキアノフは、2015年に「アメリカの大学生は甘やかされている」との記事を雑誌に寄稿し、大きな話題になった(この寄稿をもとに18年に単行本化された。邦訳は『傷つきやすいアメリカの大学生たち』草思社)。
ハイトとルキアノフは、「甘やかし」の象徴として、近年の大学キャンパスに登場した「セーフスペース」を紹介している。
名門ブラウン大学(ロードアイランド州:アイビーリーグのひとつ)では、保守派の論客が「アメリカはレイプ文化の国」という左派の主張を批判する講演を行なった際、「トラウマ体験を思い出してしまった者たちが静養し、サポートを受けられる」場所(セーフスペース)が学生たちによって設置された。そこには「クッキー、塗り絵本、シャボン玉、粘土セット、ヒーリングミュージック、枕、毛布、子犬が元気に走り回る映像などが用意された。トラウマ対処法の訓練を受けたとされる学生やスタッフまで待機していた」という。
著者たちは、「キャンパスで驚くべき事態が発生し始めたのが2013~14年、その奇妙さと頻度を増していったのが2015~17年」だとして、その背景にはiGen(アイジェン)が大学生になったことがあるとする。
iGenは「インターネット世代(internet Generation)」の略で、一般には「Z世代」と呼ばれるが、「世代論の第一人者で心理学者」のジーン・トゥウェンジはSNSとの関係を強調するこの名称を提唱している。「1994年生まれをミレニアル世代の最後とし、1995年生まれをiGenの最初とする(世代)区分」で、iGenの最年長が11歳になった2006年にFacebookが登録要件を変更し、大学生であることを証明する必要がなくなり、13歳になっていれば(または13歳のふりをすれば)ローティーンでも登録できるようになった。
iPhoneの発売が2007年で、Facebook(06年)、Tumblr(07年)、Instagram(10年)Snapchat(11年)などのSNSが次々と登場し、アメリカの若者の社会生活が大きく変化した。「iGenは、10代の人格形成期を、SNSという社会的かつ商業的実験に没頭して過ごした(そして現在も過ごし続けている)最初の世代」なのだ。
近年のアメリカで大きな問題になっているのは、iGenの不安症やうつ病の罹患率、および自殺率がミレニアル世代よりはるかに高いことだ。ハイトとルキアノフは、以下のようなデータを挙げて、アメリカの若者に驚くべきことが起きていると述べる。