買い取った数千冊は、当然ながらPR会社に山積み。その後どうなったのか気になったので、当時を知るスタッフに聞いてみたところ、「関係会社にバラ撒きまくった」とのこと。ちなみに、その本をもらった一人の女性は「1ページもめくらないまま、古本屋さんに売りました。確か10円でした」と笑っていました。
その他、懇意にしている取引先の会社に自分たちが使うパソコンを買わせている会社を見たこともあります。「我々が支払う分から買え」ということなのでしょうが、そのパソコンはクライアントが作っているメーカーのもの。買わされる取引先には直接何の関係もありません。勝手に“ノルマ”を設定し、「弊社で○○台買いました!」とクライアントに恩を売りたいのでしょうが、買わされる方にとってはいい迷惑です。ただしやはり「お世話になっているから」で飲み込んでしまう。どちらも会社のためによかれと思ってやっているわけで、まさに社畜心理、ここに極まれりです。
結局パワハラのようなノルマが課せられても、「お世話になっているから」「このくらいは業務の範囲内」「大きな視点で見たら儲かる」などと、自分たちを納得させる理屈をこねて、それに従ってしまうのです。もちろん、ビッグモーターの不正ほど深刻な問題ではありませんが、ノルマに追われることで“悪事”や“不正”に鈍感になるという側面はあるように思います。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。