ペットが原因でけがをさせてしまった場合、飼い主が損害賠償の責任を負うこととなる。しかし、治療代だけなく、その後のいろいろな費用まで請求されたならば、どこまで負担する必要があるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
犬の散歩中のことです。うちの犬が近所の人に飛びかかり、その人が転んでしまいました。すぐに病院に行き、そのときにかかった治療費を請求されたので支払いました。その後、整骨院代と(そこに通うための)ガソリン代を請求されたのですが、骨折したりヒビが入ったり捻挫したわけでもないのに、その費用まで支払わないといけないのでしょうか。
治療費は納得できるのですが、整骨院代には納得がいきません。(福岡県・48才・主婦)
【回答】
動物の行為で他人に損害を与えたときは、その飼い主など動物を支配している者(占有者)は損害賠償の義務を負います(動物の占有者の責任)。
飼育動物による事故を含め、不法行為に基づく損害賠償は、加害行為等によって被害者に発生した損失がなかった状態にするためのものです。ですから、不法行為で受傷した被害者が治療費や通院費を支出すれば財産上の損害を被ったことになります。このように、すでに持っている財産が実際に減少することを積極損害といいますが、加害者は不法行為による積極損害がなかった状態に戻すために治療費や通院費を賠償することになります。それは、けがを治療するために病院での治療が必要であったからにほかなりません。
整骨院の治療費やガソリン代の賠償義務があるか否かは、被害者のこれらの支出が加害者の不法行為により生じた損害になるか、すなわち整骨院の施術が不法行為によるけがの治療に役立つかどうかによります。