公的年金制度が賦課方式で運用されている日本は、「高齢者は働かなくても年金で悠々自適に暮らしていける」、「団塊世代はお金を持っている」などと論じられることがある。しかし、それは幻想だ。いまや、貧困はあなたのすぐ足元まで忍び寄っている。
実際、日本人の貧困率は高止まりを続けている。厚生労働省が今年7月に発表した『国民生活基礎調査』の最新値によると、2021年の日本の相対的貧困率は15.4%にのぼる。相対的貧困率とは、等価可処分所得が中央値の半分未満世帯員の割合をさす。
つまり日本では6人に1人が、貧困状態にあるということ。特に問題視されているのはひとり親世帯や、65才以上の高齢者世帯だ。
年金だけでは生活できない
結婚し、専業主婦としてこれまで不自由なく過ごしてきた千葉県在住のBさん(62才)も、不安な日々を送っているという。
「短大卒業後、メーカーの事務として勤務し、結婚を機に24才で退職しました。私がもらえる年金は月額6万円程度なので、定年した夫の年金が頼りです。ところが昨年、夫にがんが見つかって治療が必要になり、いまは貯金を取り崩す状態が続いています。最近は物価高で貯金が減るペースが加速していて、いつまで生活費がもつのか、恐怖さえ感じます」
かように高齢者の生活苦は切実だ。それは高齢者の経済基盤となる公的年金が、もはや生活を支える力がなくなってきていることにも起因する。
少子高齢化に伴い、受給額は減り、受給開始年齢は段階的な引き上げがなされるなど、いまや年金は老後を保障してくれるものではなくなった。特定非営利活動法人ほっとプラス理事で『下流老人』などの著書がある藤田孝典さんが言う。
「現役時代の収入が低かったなどの理由で、年金だけでは暮らしが成り立たない高齢者が非常に多いのが現在の状況です。国民年金だけでは到底暮らせないという相談は非常に多い。物価高に対応できず、厚生年金をもらっていても生活が苦しいという声もよく聞きます。いくつになっても働くシニアにスポットが当たっていますが、“生活のために働かざるを得ない”という面も大いにあるでしょう」