超・辣腕実業家の人生を「ゴミ拾い」が変えた
吉川さんが経営者の道を歩み始めたのは24才のとき。大学卒業後、スーパーマーケットでの勤務を経て1998年にセルビデオ事業を始めると、瞬く間に急成長。26才で長者番付に名前が載るほどにまでなった。だが、吉川さんはそれで満足しなかった。
「当時の夢は“伝説の経営者”で、月に400時間は仕事をする生活を13年間続けていました。“想定年収:1億円”を基準に、“時給5万円”を割り込む仕事は断っていました。あるときは、父のお墓参りすら時間のムダではないかと考えたほど。いまとは真逆の考え方で生きていたのです」(吉川さん・以下同)
超コスパ志向で、ワーカホリックともいえるほど仕事にのめり込んでいた吉川さんだったが、何気なく始めたゴミ拾いで、人生が一変した。
きっかけは「運動のため」だったと、吉川さんは話す。
「以前指導を受けていたトレーナーから“全身の筋肉の7割は脚にあるので、スクワットを習慣にするといいですよ”と教わったんです。それから、すきま時間にスクワットをするようになりました。あるとき、電車の待ち時間にスクワットをしようとすると、足元にゴミが落ちていた。それで、ゴミを拾いながらスクワットをすることを思いついたんです」
吉川さんは学生時代、自他共に認める“地球環境オタク”だったこともあり「健康にも、環境にもいい、ゴミ拾いスクワット」は名案に思われた。だが、ゴミ拾いスクワットは、想像以上にハード。体がついていかず「ゴミ拾い」だけが習慣化したという。
「ゴミ拾いをしていると人に挨拶してもらえたり、感謝されたりして、自己肯定感が上がりました。確かに、もし自分が神様なら“毎日ゴミ拾いをしている人を幸せにしてあげよう”と思うはずですよね(笑い)。そう思うだけでも、自己肯定感が上がって、自分を好きになれます。いままで見逃してきた“足元の花”の存在に気づかされたのです」
続けるうちに、思わぬ収穫もあった。
「無心でゴミを拾っていると、瞑想のような効果が得られます。いいアイディアは“無”になっているときに生まれる。ゴミ拾い中に降りてきたアイディアは即座にスマホのボイスレコーダーに記録し、経営会議に出します。そこからヒット企画につながったことは、一度や二度ではありませんし、ゴミ拾い中に生まれた企画の3、4割は実現しています」