相続の際にもめやすいのは複数の相続人による“遺産分割”が主だが「相続人が1人」でも思わぬピンチが訪れることがある。
都内に住む一人っ子のAさんは、預貯金などの財産がない父の死後、老朽化した地方の実家(評価額は100万円)を相続した。
「葬儀を済ませて一息ついたところに、カードローンや消費者金融からの督促状が父宛に次々と届きました。実は父には合計500万円もの借金があったのです」(Aさん)
評価額100万円の自宅を相続しても、Aさんは差し引き400万円を持ち出すことになった。相続に詳しい税理士の山本宏氏が言う。
「死後に親の借金が発覚するのはよくあることです。遺産はプラスのものばかりとは限りません。親の借金を背負いたくない場合は、相続の権利や義務を放棄する『相続放棄』で対応できます」
相続放棄では、「借金は嫌だけど、不動産だけ相続したい」などの都合のいい選択は許されない。
「プラス、マイナスにかかわらず、被相続人の財産を一切相続しないのが相続放棄のルールです。借金とともに預貯金や不動産などがある場合は、親の遺産をよく精査したうえで、放棄するかどうかを検討しましょう」
そうした「負の遺産」には、親が家族に隠して何らかの「連帯保証人」となっていた場合も含まれる(保証債務が相続される)ので注意したい。
また、相続放棄の手続きは、「相続開始を知ってから3か月以内に行なう」ことが民法で定められている。期限内に必要書類を揃えて家庭裁判所に相続放棄申述書を提出しなくてはならないうえに、プラスの遺産に手をつけると認められないなどの条件もある。
親が亡くなる前に借金などの有無を聞いておきたい。
※週刊ポスト2023年9月15・22日号