ロシア政府も金保有を急拡大
国際先物市場における金価格の推移をみると、NY金先物(中心限月)は5月4日に2055.70ドルの高値を付けた後、上げ下げを繰り返しており、9月18日の終値は1953.40ドルとなっている。今年の春にはシリコンバレー銀行やクレディースイスの経営破綻などから急騰したが、グローバルな金融危機の発生が回避される見通しが強まったことや、予想以上に金利上昇局面が続いていることなどから、一旦落ち着きを取り戻している。ただ、今後の見通しとしては上昇する可能性もありそうだ。
米国では2023年8月、格付け会社フィッチが米国債の格付けを「AAA」から「AA+」に1ランク引き下げた。これは2011年8月に別の格付け会社S&Pが格下げして以来の出来事である。米国の財政支出や債務管理に関してガバナンスの欠如といった深刻な問題がある。世界の安全資産の頂点に立つ米国債に潜在的に大きな価格変動リスクがあるならば、代替資産としての金の位置付けが相対的に高まる。
国際的な金の需要をみると、中国のほか、ロシア政府が金保有を急拡大させている。トルコが今年の春、通貨防衛のために保有する金を売るということがあったが、BRICSをはじめ非米同盟国の間でドル離れが進む中、各国の中央銀行は預金準備として、相対的にドルよりも金の保有を選好する可能性がありそうだ。
米国の利上げ局面が最終段階に差し掛かっているといった金需要拡大に有利な材料もある。今後の株式市場に関して波乱含みと予想するのであれば、国際金価格がまだ落ち着いている現在、関連資産への投資を検討する人たちも少なくないのではないか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。