例えば、鉄道だ。駅の利用者の多くは、路線バスに乗り継いで自宅などへ向かう。もしバスの便数が減ったり、廃止になったりすれば鉄道利用者は減少する。そうしたエリアの地価はやがて下がり、宅地開発計画も見直しを迫られよう。沿線価値の向上にも水を差す。
東京都市圏交通計画協議会の資料が、交通利便性が損なわれたならば人々が外出を控えるようになるとの分析を紹介している。とりわけ高齢者が影響を受けやすい。65歳以上の場合、公共交通が便利なところの外出率は67.1%だが、不便なところでは60.2%である。不便なところでマイカーなども使えないとなると39.6%にまで落ち込む。
今後増える高齢者の6割は東京圏とされる。75歳以上の激増が予測される東京圏の郊外でバス路線が廃止・大幅減便となり外出率が下落したならば、東京圏の鉄道各社の経営に大きな打撃となる。バス運賃だけでなく鉄道も値上げせざるを得ない方向へと進むだろう。そうなれば年金生活の高齢者の外出率をさらに下げる。
路線バスの縮小は、赤字ローカル線の廃止スケジュールにも影響を及ぼす。鉄道会社と沿線自治体、観光業者などが国の関与のもとで話し合う「再構築協議会」制度が10月からスタートしたが、鉄道を廃止した後の代替輸送手段として考えられてきたのが路線バスだからだ。赤字ローカル鉄道の廃線にむけた話し合いは暗礁に乗り上げかねない。
そうなれば、大都市圏の住民も無関係とは行かなくなる。JR各社のローカル線の赤字分は、新幹線や大都市圏を走る通勤電車などの利益で補充されているためだ。大都市の通勤電車運賃のさらなる値上げとなりかねない。
地方空港に着いても…バスがなければ足止め
路線バスの廃止・減便の影響は航空各社にも及ぶ。北海道の中標津空港と根室市を結ぶ中標津空港線バスは10月1日から飛行機の到着を待たず、定時運行を優先した。
その理由について、中標津町のホームページは「当バスは生活交通路線として国・道から補助を受けて運行しており、定時運行が基本であること、他停留所の乗降客も居られますことから、航空機の大幅な遅延には対応しかねます」と説明している。
同バスの時刻表を確認すると最終バスが空港を発車するのは17時45分発だ。他方、飛行機の到着時刻は17時15分なので飛行機の着陸が30分遅れたら、バスに乗り遅れる。マイカーやタクシーなどで移動できる人は別として、多くの人は標津空港に足止めされることになる。
午前中や13時台、14時台に到着する飛行機も、バスの発車時間まで余裕があるわけではない。
天候に左右されやすい航空機の遅れは日常茶飯事だ。バスに乗り継げないリスクが強まれば、中標津空港を敬遠する人も増えるだろう。結果として、飛行機の運行そのものがなくなるかもしれない。そうでなくとも、航空各社は今後10年ほどで大量退職期を迎え、パイロットや整備士などの深刻な不足が懸念されている。これを中標津空港独自の問題として片づけられないだろう。