日本では中国リスクに関する報道は多いが、米国リスクに関する報道は少ない。一方、中国では中国リスクに関する報道はほぼ見当たらず、米国リスクに関する報道は多い。日本、中国ともに、情報の非対称性が強いように感じる。
日本にとって中国リスクはほぼ経済面に限られる。最大の貿易相手国である中国で経済危機、金融危機が起きれば、輸出企業、中国投資に積極的な企業を中心に影響は免れない。しかし、中国金融市場の開放度は依然として低く、人民元の国際化は道半ばである。日本の金融機関が保有する人民元建て資産のウェイトは小さく、中国で経済危機、金融危機が発生したとしても彼らが致命的な損失を追うことはないだろう。しかし、米国で危機が発生すれば、海外資産の大半を米ドル建てで保有する日本の金融機関は甚大な損失を被ることになる。我々にとって注意しなければならないのは米国リスクの方だろう。
その米国リスクについて、中国のマスコミは度々、「部屋の中の象」といった表現を使い、説明するようになった。これは中国の格言などではなく、ロシア人作家であるクルイロフによる「好奇心の強い男」という寓話にその起源があり、「重要であったり非常に大きな話題、問題であったりするが、だれもそれについて話そうとしない」といった意味の欧米で使われることわざである。
中央広電総台国際在線は7月27日、「米国こそが世界の製造業のリスクとなる“部屋の中の象”である」といった見出しで、米国の政治学者で華東師範大学で教鞭をとるジョセフ・グレゴリー・マホニー教授の分析を紹介している。
5月に開催されたG7広島サミットの共同声明では、中国とのデカップリングを否定し、デリスキングが必要だと示されたが、これは言葉の遊びに過ぎず、デカップリングを実現するためのデリスキングだと西側諸国を批判している。
米国はスパイ活動を行っていることに関する明確な証拠を示さずに華為技術(ファーウェイ)に対して先端技術の輸出を禁じる措置を取っており、CIPS・科学法によって半導体を中心とした自国先端技術の開発、商品化を加速させ、同時に中国の半導体産業の発展を押さえつけようとしていると説明。米国の覇権主義によって各国は、中国との自由な貿易を通じた経済発展の機会を阻まれているが、各国はそれを見て見ぬふりをせざるを得ない点で米国は「部屋の中の象」であると指摘している。