米国の長期金利が今後さらに急上昇したら…
確かにそのような実態はあるかもしれないが、その弊害がもたらす日本への不利益は差し迫ったリスクといえるほどではないだろう。
一方、毎日経済新聞が10月7日に報じた「1年で2兆2000億ドルの損失!高金利が米国銀行業界を襲う、どこが次のシリコンバレー銀行か?」など、米国発金融危機発生のリスクを伝えるものについては、実際に起こった場合、日本への影響は大きいだけに、十分注目に値するだろう。
全米経済研究所によれば、2022年第1四半期から2023年第1四半期にかけて、金利上昇によって米国の銀行システム全体が受けた債券投資による(評価)損失は2兆2000億ドルに及ぶ。不動産向けローンが不良債権化する潜在的なリスクがあり、特に資産総額の20%近くを不動産向けローンが占める財務体質の脆弱な地方銀行にとって、これは深刻な問題だと警告している。
金利の上昇は、債券投資における評価損の発生に加え、不動産向けローンの不良債権化を引き起こす。高いレバレッジをかけてひたすら規模を拡大しようとしているベンチャー企業なども、資金繰りに窮する可能性が高まる。金融機関や市場関係者はこの「部屋の中の象」を見えないふりをしているのではないかと指摘している。
欧米の市場関係者が声高にそれを口に出してしまえば、そのこと自体が債券市場に悪影響を与えかねない。その点を考えれば、積極的にリスクを伝えないからと言って一概に責められるものではないかもしれないが、しかし、投資家はこの「部屋の中の象」を見過ごすわけにはいかない。
米国の長期金利が今後、さらに急上昇するようであれば、慎重な投資行動をとる必要がありそうだ。もっとも、急落するようなことになれば、逆にそれが投資チャンスとなるかもしれない……。とにかく、これまで以上に繊細に、米国の金利動向を追うことが肝要だろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。