近年、「デートDV」という言葉が注目を集めている。DVとは「Domestic Violence(ドメスティック・バイオレンス)」の略で、一般的には夫婦間など、家庭内、同居者間で起こるものと認識されがちだ。一方「デートDV」は、交際相手暴力を意味し、婚姻関係がない恋人のあいだで起こる“様々な暴力”をいう。殴る蹴るといった身体的暴力にくわえ、生活費を支払わない、デート費用をまったく支払わないなどの経済的暴力、人前での罵倒、メールやSNSの盗み見、交友関係を制限したりする精神的暴力、性行為の強要や撮影行為などの性的暴力まで、その範囲は幅広い。
恋人がいる人のなかには、これらの行為が「愛情ゆえの束縛」「重たい関係こそ恋愛」などと捉えてしまう人もいるかもしれない。とくにスマホで常時相手とつながることができる現代では、便利なツールが一転して恋人を拘束するための手段として利用されてしまう側面もある。
“メンヘラの重い恋愛なんです”の一言で片付ける
実際にデートDVは学生のあいだでも頻発していると語るのは、都内の私立大学でジェンダー論の授業を担当している大学教員の女性・Aさん(40代)だ。
「ゼミ生や講義の履修生たちと会話をしていると、よく恋愛相談をされます。私が学生の頃は大学教員に恋愛の話をするなんて、考えたこともなかったのですが、いま接している学生たちは良くも悪くも幼く、純朴で、友達感覚で恋の悩みを相談してきます。
ただ、その大半がデートDVに該当していることに危機感をおぼえています。たとえば、最近では、『彼氏や彼女の束縛がキツく、常にインスタやツイッター(現・X)を監視されている。一緒にいるときにスマホをいじっていると、ロック画面の解除を監視されて、パスワードを記憶されている』という事例がありました。
このほか『授業も期末試験も常に隣の席に座るように要求される』『大学の行き帰りは必ず一緒でないと怒られるので、履修登録を恋人とそろえている』『彼女のスケジュールに合わせてアルバイト先を決めさせられた』という話も聞きます。でもそれを学生は“メンヘラの重い恋愛なんです”の一言で片付けてしまう」(Aさん)
Aさんは、こうした恋人間の行為には、ある共通する考え方があるのではないか、と分析する。
「これらは愛情ではなく、デートDVに典型的な暴力の一種です。その共通点は、“相手を自分の所有物として扱う”というところ。そのため、相手の時間や人脈を拘束し、行動パターンを制限しようとするのです。告白してOKされたら恋人関係になり、その後は、相手を自分の思い通りに扱うことができる所有物と勘違いしてしまう。これは暴力であり愛ではありません。私がジェンダー論の講義を担当していることもあり、学生にとっては恋愛や性の悩みを打ち明けやすいのかもしれません。いずれにせよ、学生たちの恋愛にかかわる本音や現状をもっとシリアスに受け止めるべきだと感じてもいます」(Aさん)