1056ページの超大作『日本』が11万部の大ヒット
2020年12月、『地球の歩き方』はダイヤモンド・ビッグ社から学研グループに事業譲渡される。激動の当時を、「不安でしかなかった」と清水氏は振り返る。
「トップが変わることで事業の方針が見直され、『地球の歩き方』の編集方針や内容についてガラッと変えなきゃいけない可能性もある。でも、新社長の新井邦弘は旧来の『地球の歩き方』ファンだったんです。むしろ『“日本”版はないの?』と新しい道を提案してくれ、ありがたかったですね。
新井の一声に、編集部一同『確かに』と(笑)。『東京』での手応えもあり、編集部の奮闘が始まりました」
2022年9月に発売した『日本』は1056ページ・956グラムという超大作。情報の取捨選択には苦労した。「ガイドブックとしては持ち歩けないレベルの重さ」と清水氏は笑うが、5万部超えでヒットと言われるガイドブックの世界で、11万部を記録した。
「情報量」と「網羅性」へのこだわり
『地球の歩き方』シリーズのこだわりは「情報量」と「網羅性」だ。その方針は海外編でも国内編でも変わらない。
「元々『地球の歩き方』は、若いバックパッカーをメインの読者層に想定して始まったものです。その国の基本情報や季節ごとの服装、トラブル発生時の連絡先・会話集に至るまで、どんな場面でもそれに対応できる情報が載っている。実際に行った人のリアルな声も掲載しています。旅行の際は『地球の歩き方』一冊があれば安心で、“旅人の旅人による旅人のためのガイドブック”を理想としているんです」
扱う情報になるべく“強弱”をつけない点も『地球の歩き方』らしさだ。
「例えば京都のガイドブックだと人気のスポットを大きくとりあげ、そこを中心に編集し、見どころが少ない市や町は省略するのが一般的ですが、『地球の歩き方』なら全市区町村を載せるという方針をとります。
実際に『日本』は47都道府県をカバーし、基本的に1都道府県あたり18ページを割きました。北海道と沖縄だけ各4ページ多いのですが、どうしても載せたい情報があった結果です。細かいところまで網羅しているため、地元の方から『我が街を取り上げてくれてありがとう』、『こんなに魅力がある街だったんだと再認識しました』などのお声をよくいただきます」
ガイドブックは本来旅行先の本を買うものだが、何故か地元版を買いたくなる。もしかしたら、自分の知らない“地元”の情報が載っているかもしれない。あるいは、自分の知っている“地元”の情報が載っているのか、確かめたくなる――。『地球の歩き方』国内編ならではの魅力だろう。