観光スポットやグルメ、宿泊先など、行きたい場所や知りたいことがある時、まずスマホを取り出す人も多いだろう。情報を収集する手段が紙媒体からネットに移ろいゆくなか、旅行ガイドブックも進化を迫られている。
海外ガイドブックとして有名な『地球の歩き方』は1979年の創刊以来、約160の国・地域のガイドブックを出版してきた。コロナ禍となった2020年以降は海外ガイドブック以外にもその幅を広げ、日本国内の市や区などのニッチな場所にもフォーカスを当てたシリーズや、人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』『宇宙兄弟』、ミステリー雑誌『ムー』など、“異ジャンル”とのコラボ企画も話題を呼んでいる。
そんな『地球の歩き方』が見据える未来とは――。国内シリーズの編集を統括する株式会社地球の歩き方・コンテンツ事業部出版編集室プロデューサーの清水裕里子氏に、話を聞いた。【前後編の前編。後編につづく】
バックパッカーに愛された『地球の歩き方』
『地球の歩き方』が創刊された1970年代前後は、世界中にバックパッカーブームの気運があった。1973年には、その国の歴史・マナー・文化や現地での移動手段などを網羅し、膨大な情報量を誇る旅行ガイドブック『Lonely Planet』が創刊されている。
日本でもそれより少し前の1961年、作家の小田実氏が欧米・アジア22カ国を貧乏旅行した体験を綴った『何でも見てやろう』が話題を呼んだほか、1986年、沢木耕太郎氏が香港からロンドンまで陸路2万キロの旅行を記した『深夜特急』は累計600万部のベストセラーに。実体験をもとにした紀行文が若い世代を中心に支持を集め、ブームを後押しした。
「私たちも、創刊当初のメインターゲットは海外旅行に憧れるバックパッカーの若者でした。旅をした若者が、次に旅をする若者のために残した口コミをまとめたのが『地球の歩き方』の前身で、“旅人の旅人による旅人のためのガイドブック”をコンセプトにしていました」(「」内清水氏、以下同)
当時『地球の歩き方』を出版していたダイヤモンド・ビッグ社(現在『地球の歩き方』は学研グループに事業譲渡)は、もともと就職情報誌を発行していた。就職が決まった内定者たちが行った海外研修ツアーでの体験と口コミをまとめた冊子が好評を博し、ガイドブック事業へ乗り出すことになる。
1970年代初頭は、1ドル=300円台という円安の時代。格安航空券も登場する前で、海外旅行は気軽に行けるものではなかった。そんななか、『地球の歩き方』は長期間の貧乏旅行も想定した内容で、地に足のついた現地情報がわかるガイドブックとして若いバックパッカーの強い味方となった。