その検討は安倍政権において始まったが、本腰が入り出したのは岸田政権になってからだ。今年5月には後期高齢者医療制度の保険料の引き上げを盛り込んだ改正健康保険法などが成立した。出産育児一時金を42万円から50万円に引き上げる財源の一部も後期高齢者医療制度が負担することで決着し、政府は「異次元の少子化対策」の財源の1つとして創設する支援金制度の財源についても75歳以上を含めて徴収する考えだ。
現在は、内閣官房の「全世代型社会保障構築会議」において、2028年度までに必要となる改革の行程表を策定する作業が進められている。この中では、75歳以上の医療費窓口負担を原則2割に引き上げる案も浮上している。
政府が全世代型社会保障を切り札として位置づけているのは、現役世代の負担が限界に達しつつあるためだ。
出生数の減少が政府の想定以上のスピードで進んでいることもあり、現役世代が高齢者を支える現行の社会保障の仕組みでは早晩行き詰まるとの認識が、政府内でも急速に広がってきているのである。
本来ならもっと早く抜本改革すべきだったが
問題は、現役世代の人数が著しく減っていることだけではない。賃金上昇が進んでこなかったため、社会保障費の伸びが雇用者総報酬の伸びを上回る状況に陥ってきていることだ。このため、現役世代に過度の負担を求めることになってしまった。
本来ならばもっと早い段階で社会保障制度を抜本改革する必要があったはずだが、進んでこなかった背景には政治の不作為がある。選挙への影響を懸念する国会議員には高齢有権者に不人気な政策を敬遠する人が少なくないためだ。
増税は世論の反発が強いことから、給与天引きで国民が気づきにくい社会保険料を引き上げるという姑息な手段を繰り返してきたのである。
このため、現役世代が負担する社会保険料は急上昇してきた。財務省が協会けんぽを例に挙げているが、報酬に占める割合は2000年には22.7%だったが、2023年は30.1%だ。2040年には32.6%になる見込みである。
この結果、国民負担率も上昇を続け、2022年度の国民負担率は47.5%と所得のほぼ半分を占めるに至っている。収入の半分近くが税金や社会保険料として消えて行く現状は、現役世代の意欲を削ぐ。SNS上には「五公五民」といった若い世代の不満の声が渦巻いている。