2000年代生まれの若者は「対面を気にしない」
ただ、彼らの意見を読んでいて少し気になったのは、「2000年代に生まれた若者は、1990年代、1980年代に生まれた若者ほど体面を気にしない」といった指摘だ。
虚栄心を持つべきだなどとは決して思わないが、体面を気にしてTHE NORTH FACEのダウンジャケットを着たいのならば、バイトを増やしたり、無駄な出費を抑えたりして、お金を工面するといった努力をしたり、両親から資金を引き出すために粘り強く交渉したりするだろう。そうした努力が嫌だから、面倒くさいから、体面など気にしないのだとすると、若者層の活力低下が心配だ。
前述の波司登だが、11月28日に行われた中間決算発表会などによれば、2017年には1000~1100元(2万500~2万2550円)程度で販売されていたレベルの商品価格が2021年には1800元(3万6900円)まで引き上げられている。足元ではやや下がり、1700~1800元(3万4850~3万6900円)程度となっている。
ここ数年、同社商品の普及が進み、これまでのように売上を拡大させることが難しくなってきた。そこで、デザインを工夫するなど付加価値を高めることで価格を引き上げ、利益を伸ばす戦略をとってきたわけだが、ネットユーザーからは「波司登のダウンジャケットは高すぎる」といった批判が多く上がっている。商品戦略が消費者のニーズと乖離し始めている可能性があり、その点を察知した同社は安い価格帯のブランドを新たに作って対応しようとしている。
足元の経済指標を見る限りでは、1年半にわたり不動産開発投資の減速が続く中、輸出(ドルベース)も5月以降、減速が続いている。小売売上高は7月をボトムに回復基調にあるが、10月時点で伸び率は7.6%にとどまっている。景気回復に向けて、若い人たちの消費意欲の高まりを期待したいところだが、期待薄かもしれない。
長期的な視点からいえば、これまで中国経済を牽引してきた大きな要因として、民営企業家たちの強烈なアニマルスピリッツ(野心的な意欲)が挙げられる。しかし、中国も日本のような低欲望社会に変わっていくのであれば、今後、労働力の減少に加え、生産性も伸び悩みむかもしれない。
日本のインバウンド関連企業、日米欧の化粧品、高級ファッションブランドなどは今一度、中国戦略を見直す必要があるかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。