また、賃貸物件の家賃は東京も大阪も“西高東低”だ。東京は都心からの「時間距離」と専有面積が同じなら、西側の世田谷区、目黒区、杉並区より東側の台東区、墨田区、江東区のほうが安い。千代田区の岩本町や中央区の馬喰町なども交通が便利で狙い目だ。大阪の場合、西側は兵庫県の夙川や芦屋などの高級住宅地で、北側の千里や箕面も高いが、東側と難波以南のエリアは格段に安い。最近はドヤ街の「あいりん地区」がある西成周辺も、星野リゾートのホテルができたり外国人観光客が増えたりして様変わりしている。
日本はどこでも治安に大差はないのだから、地域や方向に対する偏見を捨て、家賃と交通の利便性(通勤の時間距離)を優先して住む場所を選べばよいのだ。
賃貸生活の最大のメリットは“移動の自由度”があることだ。いったん住宅を購入してしまったら、住む場所を変えるのはけっこう骨が折れる。
さらに、今は家具・家電のサブスクリプション(定額制)サービスがたくさん登場している。すべて新品で、月額利用料を払えば配送・回収・設置費用は無料。気に入ったら購入することもできる。家具・家電付きのシェアハウスや、そういう物件をワーケーション用に提供しているサブスクサービスもある。それらを活用すれば、引っ越しが簡単で身軽に生活できる。
もはや35年ローンで多額の借金をして“終の住処”を買い、一生かけて返済するという時代ではない。従来の常識にとらわれず、現役のうちは、住宅は賃貸、家具・家電はサブスクで暮らす。そして、そうすることで生まれた資金と時間の余裕を活用して新しい時代に必要なスキルを身につけ、富裕層になるための起業などにチャレンジする――。それが新築分譲マンション高騰時代の賢明な選択肢だと思うのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2023年12月22日号