2025年大阪・関西万博開催まで500日を切った。建設費の増額や準備の遅れなど課題ばかり指摘されるが、奮闘している人たちもいる。1970年の万博で話題を集めた三洋電機の「人間洗濯機」を現代に甦らせようと、2人の経営者が動き出した──。
「全自動の風呂を作れ」
「人類の進歩と調和」をテーマに開催された1970年の大阪万博。前年に人類初の有人月面着陸を果たしたアポロ宇宙船が持ち返った「月の石」を展示したアメリカ館には、待ち時間4時間以上という長蛇の列ができた。
超大国のパビリオンに負けず劣らず人気を集めたのが、三洋電機の「サンヨー館」。そこで世界を驚かせたのが、流線型のカプセルの中に座るだけで超音波やマッサージボールで自動的に入浴を済ますことのできる全自動バス「人間洗濯機(ウルトラソニックバス)」だ。
当時、同社の最大の売り物は会長だった井植歳男氏が自ら開発した「噴流式洗濯機」。この技術で「全自動の風呂を作れ」という井植氏の号令のもと、洗濯機の技術者らが3年がかりで開発した。
万博が終わった後、三洋電機はこの「人間洗濯機」を800万円で市販している。現在の相場で言えば1億円近い超高額商品だが、それでも数人の買い手が現われたという。
歳男氏は、松下電器産業(現パナソニック)の創業者・松下幸之助氏の義弟で、「日本の主婦を家事の重労働から解放する」という理念で次々と画期的な家電製品を生み出した。息子の敏氏は時代の先端を読む「ビジョナリー」で、会長時代の2003年、まだ介護の重要性が今ほど認識されていなかったが、人間洗濯機を改良した介護用入浴装置「ハーブ」を発売した。