こうした動きに対し、日本勢の対応は鈍い。タイに工場を持つ日本メーカーの経営トップは「タイでこれほどEVが拡大するとは想定外だった」と打ち明ける。うかうかしていると中国に虎の子の市場を奪われかねない。
脅威を感じているのは日本企業だけではない。EVシフトはこれまで米国のテスラが牽引してきたが、BYDが猛追している。2023年7~9月期決算では純利益が104億元(約2141億円)と2002年の上場以来、過去最高に。EV販売も67%増の43万1600台となり、テスラに約3400台差まで迫った。
BYDは中国の自動車メーカーにしては珍しく地に足が着いた戦略を取る。それを表わすのが、2010年に、最先端の自動車の金型技術を持つ日本のオギハラ館林工場を買収したことだ。金型はものづくりの競争力を左右する大きな要素。BYDは長期戦略を持って日本に学び、着実に力を付けてきた。
(後編につづく)
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産VS.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある
※週刊ポスト2024年1月1・5日号