先行する欧米や中国に対して、電気自動車(EV)シフト転換で後れを取る日本の自動車産業。世界に誇る“基幹産業”は、衰退を避けられないのか、それとも2024年に光明は見えてくるのか──。タイのEV市場ではBYDを筆頭とする中国企業4社で9割のシェアとなり、完全に「日中逆転」が起こっている。長年にわたって自動車業界を取材してきたジャーナリストの井上久男氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
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「日中逆転」の構図はタイ市場だけではない。
2023年5月、EVで出遅れたトヨタは、開発から販売まで一人の責任者の下でEV事業を推進するために「BEVファクトリー」を新設。そのトップに就いた加藤武郎氏は、直前までトヨタとBYDが中国で設立したEV開発の合弁会社で最高技術責任者(CTO)を務めていた。「EVではチャレンジャー」と語るトヨタが、BYDから学ぼうとする姿勢がうかがえる。
そのトヨタは、EVシフトへのアクセルを急激にふかしている。
EVの心臓部・電池生産への投資を加速させており、10月31日、米国での電池生産に対し、80億ドル(約1兆1600億円)もの巨額の追加投資計画を発表した。
米国に限らず、国内最大のエンジン生産拠点である下山工場(愛知県みよし市)の一部を電池生産に切り替えるほか、パナソニックとの電池合弁会社の拠点である姫路工場の増強も計画している。
2023年5月の決算発表で、2030年までの電池への投資額を従来計画の4兆円から1兆円引き上げ、5兆円にした。冒頭で触れた“ドル箱”タイ市場については、現地で売れ筋の「ピックアップトラック」のEV化を進めるなど、市場の変化に対応する動きを見せている。
トヨタは販売を2026年までに150万台、2030年までには350万台に拡大させる計画だ。2022年にEVを約2万6500台しか売っておらず、わずか4年で販売を60倍にするという野心的な計画となっている。
トヨタと同様にホンダも巻き返し策を強化している。2021年に社長に就いた三部敏宏氏は「外部の知見の活用とアライアンス(提携)には躊躇なく判断する」と語っており、孤高の独立戦略を貫いてきた方針を切り替えた。
そこでホンダは、ソニーと手を組んだ。2022年に合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立。共同開発して2025年に発売するEVのブランド名は「アフィーラ」だ。異業種2社が手を組んだ理由の一つは、脱炭素の議論を起点とするEVシフトが、「自動車のスマート化のためには避けて通れない」(大手メーカー技術者)と、様相が一部変化している点にある。