長く働くのが当たり前の時代、60歳定年後の働き方はどう選ぶべきか。65歳までの雇用延長(再雇用)の仕組みを導入する企業は多いが、これまではその短所に焦点が当たることが多かった。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が言う。
「問題点としてよく指摘されてきたのが、給料が60歳前の5~7割に下がってしまうこと。また、“別部署に異動になって年下の上司にこき使われるのが大変だ”といった話はよくあります」
定年前に比べて給与が減った場合、一部を補填する「高年齢雇用継続基本給付」の制度があるが、2025年から縮小が決まっている。ますます再雇用が不利に思えるが、前出・溝上氏は意外にも「そうとは限らない」と話す。
「業種にもよりますが、人手不足が顕著になるなか、人材確保のために企業側も60歳以上の賃金水準を改善せざるを得なくなるでしょう。今後数年でバブル期の大量入社組が定年に差し掛かる事情もあり、企業側の危機意識は高まっています」
定年前から実務面の知識をアップデートしておく
また、年金制度との関係にも注目だ。これまでは、定年後に働きながら年金を受給した場合、給料と年金の合計が一定額(月額47万円)を超えると年金がカットされる「在職老齢年金」の仕組みがあるため、いくら稼いでも年金をカットされないように個人事業主になる「60歳以降の独立」が推奨されることが少なくなかった。しかし、その点も事情が変わる。
「これまでは60代前半に年金(特別支給の老齢厚生年金)を受け取れる世代が定年を迎えていたが、男性なら1961年4月2日以降に生まれた人から65歳支給開始に統一される。年金との合計額を気にする必要がない60代前半のうちは再雇用という選択肢がより有力になります。
独立・開業は体力も必要なので、成功する人は50歳までに決断しているケースが多い。転職にしても、60歳以降で正社員の職を探すのは現実問題としては厳しい」(溝上氏、以下同)