若き日の思い出が胸に残っている人も多いことだろう。“全品270円居酒屋”で知られる飲食チェーン「金の蔵」。2009年にオープンし、最盛期の店舗数は100に迫ったが、いまや1店舗だけになってしまった。あの「金の蔵」に何が起きたのか。運営会社SANKO MARKETING FOODS(以下、サンコー)の代表取締役社長である長澤成博氏にインタビューした。【前後編の前編。後編を読む】
「東方見聞録」から転換、2011年の店舗数は98店舗
もともと「金の蔵」は、同社が「東方見聞録」の次に打ち出すブランドとして誕生した。1998年オープンの「東方見聞録」は、割烹出身の料理人などを集め、本格的な料理を提供しながらも客単価は3000~4000円ほど。2人用個室から宴席までプライベートな雰囲気を演出し、元祖・個室居酒屋とも言える存在だ。
「それまで居酒屋といえば、広々とした宴席で大学生がワイワイするようなイメージでしたが、『東方見聞録』は、料亭とまではいかずとも、ちょっとした商談や会食、デートにも使える特別感から、個室居酒屋の走りとして大ヒットし、サンコーの上場につながりました」(長澤氏、以下同)
しかし、2008年に起きたリーマン・ショックでビジネスパーソンの財布の紐が固くなり、業態変更を余儀なくされた。そこで生まれたのが、270円居酒屋「金の蔵」だ。前身である「東方見聞録」の店舗は、幅広い人数のグループに対応するため、150~200坪という広さだった。またタッチパネルによるセルフオーダー形式を導入していたことにより、“人件費を抑えることができる”と激安路線に踏み切った。
「東方見聞録」を転換させた「金の蔵」は絶好調で、2011年の店舗数は98店舗にのぼった。しかし、長澤氏が代表取締役社長に就任した2018年6月には、すでに業績が右肩下がりの状況だったという。なぜ「金の蔵」は失速したのか。
「かつてのサンコーは、都心部に集中的に出店するのを基本方針としていました。一時は新宿だけで40店舗あるような状況で、他社も格安路線に乗り出して、市場において飽和状態となっていました。オープンから10年経ち、『金の蔵』の業態も経年劣化していました。
また、働き方改革の影響もあります。都心部にある会社の職場の方々が集まる大宴会が減りました。『金の蔵』のような大箱の居酒屋ほど席を埋めるのが難しくなり、インバウンドの団体客の予約をとることでカバーするようなことをやっていました」