羽田空港のC滑走路で起きた日本航空(JAL)516便の衝突事故で、乗員・乗客379人全員が脱出できたことは世界中から称賛を浴びた。
〈羽田の奇跡〉(英・ガーディアン紙)
〈奇跡としか言えない〉(米・CBSニュース)
機体から激しい炎と煙があがるなかで「奇跡」が現実となったのは、乗務員の日頃の鍛錬があったからだ。一般社団法人ファーストクラスアカデミー代表理事でJALの元客室乗務員の香山万由理氏が語る。
「乗務員は毎年1度、日本航空の訓練センターでエマージェンシー訓練を実施しています。筆記、実技試験を丸1日かけて行ない、合格しなければ乗務ができません。毎回のフライト前にも、機体の構造や脱出手順を互いに確認し合っています」
現在のJALの訓練センターが完成したのは2014年のこと。以来そこで10年にわたって続いた訓練が、「奇跡」を可能にした。
衝突から脱出までに要した時間は18分。その間に、乗務員は重ねた訓練をどう活かしたのか。
香山氏は「初動の『パニックコントロール』の徹底」を高く評価する。
「毎年の訓練では、エンジンの故障など原因が分かっていて緊急着陸する場合と、突発的な事故の両方を想定しています。今回のような後者の場合、CAも状況が分からないなか、まずは『大丈夫、落ち着いて』と呼びかけるのが鉄則。事故時の機内の動画を見てもそうした鉄則が守られており、煙が充満すると『姿勢を低くして、鼻と口を押さえて』と指示できていた」