傘立てにさしていた傘をめぐるトラブル。もし飲食店の傘立てにさしていた傘が他人に持ち去られた場合、店に責任を問うことは可能なのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
雨の日、某コーヒーチェーン店でお茶をしました。でも、悔しいことに、店の傘立てにさしていた傘を誰かに持っていかれたのです。友人が贈ってくれた高級傘なので、余計に腹立たしい。店員に苦情を訴えても、「どうにもなりません」との対応。それでも盗まれたのは事実ですし、店に責任はないのですか。
【回答】
傘立てが店内か、店外かで違います。商法では飲食店などの「客の来集を目的とする場屋における取引」を場屋営業といい、その場屋営業者が、客から寄託を受けた物が滅失や損傷した場合は、不可抗力で発生したことを証明しない限り、業者が損害賠償の責任を負います。
しかし、寄託とは預けることですから、店が客の傘を預かることを約束して受け取ることが必要です。客が傘を傘立てに入れただけでは、寄託したとはいえません。
寄託していない物であっても、客が場屋(店内)の中に携帯した物が、店の注意が疎かだったことによって滅失、又は損傷した場合、店には損害を賠償する義務があることも定められています。
ただし、寄託があった場合と違い、店が注意を怠った過失を証明することが必要です。そこで傘立てが店内にあれば、場屋に携帯したのですから、店の過失の有無が問題になります。店が払うべき注意義務は店の種類や規模、客層や客の数、携帯した物の種類・形状・大きさなどによって違い、一概にはいえず、特に多くの客が出入りする店では、よほど特徴のある物でなければ、いちいち店員が注意を払うことは期待できません。