植木などの“越境”が隣家とのトラブルにつながることがある。また、植木だけでなく、家屋の一部が越境してしまうケースもある。そういった場合、どのような解決策があるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
わが家の隣は長年空き地になっていましたが、先日不動産業者が来て、「土地を売り出すので土地の測量をしたら、お宅の屋根と植木が越境していました。どうにかしてほしい」と言われ、困っています。うちは築30年以上経っており、隣が空き地になる前からいまの状態です。植木は枝を剪定すればすみますが、屋根はどうすることもできません。よい解決方法はありますか。(滋賀県・60才・パート)
【回答】
隣地境界線近くまで建物を建てることや境界近くに植えた木の大きくなった枝が越境することは珍しいことではありません。建物の壁面は境界から50cm以上離すのが原則ですが、防火地域や準防火地域で外壁が耐火仕様であれば境界線に沿っての建築が可能です。
しかし、建物の壁面が適法に境界線内に収まっていても、屋根が境界線から飛び出せば、隣地の土地所有権の侵害になります。そこで、隣地所有者は屋根のうち越境している部分の撤去を請求できます。建物所有者が応じなければ、裁判を起こして、撤去を命じる判決をもらい、さらに実際に撤去を実現するために強制執行を執行官に申し立てる必要があります。大変な手間がかかるうえ、隣地所有者にとって裁判で争うことが危険な場合もあります。
例えば、侵害が微小で屋根撤去に莫大な費用がかかるのに、隣地の使用には影響がなく、越境を受け入れても不利益がないような場合は、撤去請求は権利の濫用として認められない可能性があります。
また、越境した屋根の下に隣地所有者の塀や工作物などの設置や隣家による使用もなく、かえってあなたが屋根の下に設備を設置し、物を置いたりして使用している場合には、屋根直下の土地部分を占有していることになり、時効取得の反論を受ける恐れもあるのです。